サイネージのコンテンツ設計|3秒で伝わる情報の並び順と、差し替えに耐える訴求テンプレート

店内に置かれた縦型デジタルサイネージ。画面には要素が一つだけ、広い余白を取って配置されている

"サイネージのコンテンツで迷うのは、デザインの善し悪しではありません。1枚に何をどの順で置くかを決めていないからです。3秒を3区間に割って要素を配る型、JIS規格から逆算する文字数の上限、差し替えに耐えるテンプレートの組み方までを、実務の手順として整理します。"


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サイネージのコンテンツで迷う原因は、たいていデザインの善し悪しではありません。1枚に何をどの順で置くかを決めていないことです。

「情報を絞る」「シンプルにする」は、どの解説にも書かれています。ただ、絞ったあとに何を残すかの基準がなければ、現場では必ず全部載せた1枚に戻ります。営業は価格を入れたい、店長は地図を入れたい、本部はロゴを大きくしたい。判断の物差しがないので、足し算だけが通ります。

この記事では、画面を見ている数秒を3つの区間に割って要素を決める手順、1枚に載る量を規格から逆算する方法、そして現場が毎週差し替えても崩れないテンプレートの組み方を順に示します。

なお、どの面で何を訴求するかは業種によって変わるため、飲食店のデジタルサイネージ活用小売店のデジタルサイネージ活用で扱っています。本記事はその次の工程、決まった訴求を1枚の画面に落とす作業を扱います。サイネージ運用の全体像は親記事の店舗売上を伸ばすデジタルサイネージ運用|失敗しない7つの設計にあり、本記事はその原則1を実装まで降ろすものです。

「シンプルにする」が現場で機能しない理由

絞る基準がないと、要素は必ず戻ってくる

サイネージのコンテンツ制作でよくある流れがあります。最初の案は整っています。写真が1枚、コピーが1行、QRが1つ。ところが確認が一周すると、キャンペーン名が入り、期間が入り、注意書きが入り、ロゴが2つ並びます。完成した頃には、最初の案の面影がありません。

これは誰かが悪いのではなく、足す理由は全員が言えるのに、落とす理由は誰も言えないからです。「価格は入れたほうがいい」には理由がありますが、「価格を落とすべきだ」と言うには、落としても伝わるという根拠が要ります。その根拠を用意していないので、議論は常に足す側に倒れます。

したがって必要なのは「シンプルにしよう」という掛け声ではなく、落とす側にも根拠を持たせる仕組みです。本記事の型は、そのためのものです。

3秒を3つの区間に割って要素を決める

通行客が画面を見ている時間は、長くて数秒です。この数秒を1つの塊として扱うと、「短いから情報を減らす」以上のことが言えません。区間に割って、それぞれで果たす役割を決めると、要素の要不要が機械的に決まります。

当社が実務で使っている割り方は、次の3つです。

区間1(0〜1秒)=止める

最初の1秒で決まるのは、「自分に関係あるか」だけです。ここで内容を伝えようとしても届きません。

置くのは、誰向けかが一目で分かるもの一つ。写真1枚か、大きな文字の1語です。「本日限定」「ランチ」「新発売」のような、意味を読まなくても目に飛び込む単位のもの。この区間に文章を置くと、区間そのものが機能しなくなります。

区間2(1〜2秒)=伝える

止まった人、あるいは視線が残った人に、主役の訴求を一つだけ渡します。

ここが本記事で最も強調したい点です。主役は一つです。二つ置いた時点で、読む側はどちらを見るか選ぶ作業が発生し、その分の時間で区間3に到達できなくなります。「AもBも訴求したい」は、1枚に2つ載せるのではなく、2枚に分けて交互に出すのが正解です。画面は紙と違い、時間で分けられます。この利点を使わない手はありません。

区間3(2〜3秒)=渡す

最後に、次の行動を一つだけ渡します。価格、場所、QR、期限のうちどれか一つです。

四つ全部を載せている画面をよく見かけますが、これも区間2と同じ理屈で、選ぶ作業を発生させます。何を渡すかは、その面の役割で決まります。店頭なら「入る理由」、レジ前なら「ついでに買う理由」というように、業種ごとの当てはめは飲食店小売店の記事を参照してください。

区間別の要素対応表

区間 果たす役割 置くもの(各1つ) やりがちな失敗
区間1(0〜1秒) 止める
自分に関係あるかを判定させる
写真1枚、または大きな1語(「本日限定」等) キャッチコピーという名の文章を置く
区間2(1〜2秒) 伝える
主役の訴求を渡す
訴求1行(15文字以内が目安・後述) 主役を2つ載せて、選ぶ作業を発生させる
区間3(2〜3秒) 渡す
次の行動を1つ指定する
価格・場所・QR・期限のうち1つ 4つ全部載せる/QRを小さく隅に置く

の列が、1枚に載せてよい要素のすべてです。ここに入らないものは落とす対象になります。

この表の使い方は一つです。要素を足したいという意見が出たら、「それは区間1・2・3のどれですか」と聞く。 すでにその区間が埋まっていれば、いま入っているものと入れ替えるか、別の1枚に分けるかの二択になります。足すか足さないかの水掛け論が、置き換えるかどうかの具体的な議論に変わります。

区間の秒数そのものは目安です。レジ前のように待ち時間がある面では区間2と3を長く取れますし、通路脇なら区間1で終わることもあります。変わるのは秒数であって、順番と「各区間1つ」の原則ではありません。

1枚に載せる量の上限をどう決めるか

「15文字以内」と書きましたが、これは感覚値ではありません。画面サイズと視距離から逆算できます。

読める最小の文字サイズは、規格で決まっている

日本語文字が読める最小サイズには、JIS規格があります。JIS S0032:2003「高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」です。年齢10〜80歳、視距離0.2〜100m、輝度0.01〜3,000cd/m²の範囲で、最小可読文字サイズを推定する方法を定めています。

規格では、視距離D(m)と観測条件における視力Vからサイズ係数S=D/Vを求め、書体と字画数に応じた係数a・bを使って、最小可読文字サイズPmin=aS+b(ポイント)を算出します。ここでいう最小可読文字サイズは、規格の定義では「1文字を80%以上の正答率で読むことのできる最小の文字サイズ」です(出典:JIS S0032:2003)。

この式に、店舗サイネージで想定される条件を入れてみます。対象を60歳、書体をゴシック体、字画数を漢字11〜15画(実務で条件が厳しい側の組み合わせ)とすると、次のようになります。

視距離 JISによる最小可読サイズ 通行中に読ませる実務値 想定する面
2m 約22pt(約8mm) 約45〜67pt レジ前、卓上、待合
3m 約29pt(約10mm) 約60〜88pt 店頭、店内通路
5m 約43pt(約15mm) 約87〜130pt ファサード、大型通路

JIS S0032:2003 の式にもとづく試算(対象60歳/ゴシック体/漢字11〜15画/基準輝度100cd/m²)。ポイントからmmへの換算は JIS Z 8305 の 1pt=0.3514mm による。

「JISによる最小可読サイズ」と「実務値」の間に2〜3倍の開きがあるのは意図的です。 規格が定めているのは、じっと見て1文字を読める下限です。通行しながら一瞬で読む状況は、これよりはるかに厳しくなります。実務ではこの下限の2〜3倍を目安に置きます(※1)。

興味深いのは、この実務値が、サイネージの解説記事でよく見かける「3m離れて60〜80pt」という経験則とほぼ一致することです。現場で使われてきた数字には、規格から見ても裏付けがあったことになります。

なお、画面を明るくすれば小さい文字でも読めるのでは、と考えたくなりますが、効果は限定的です。規格の輝度補正係数を見ると、基準の100cd/m²に対して300cd/m²で1.0568、500cd/m²で1.0832。輝度を5倍にしても、読める文字サイズは1割ほどしか改善しません。 明るさは屋外での視認性確保には効きますが、文字を小さくする理由にはなりません。

そこから、1行に載る文字数が出る

サイズが決まれば、画面幅から文字数は割り算で出ます。

43インチの16対9ディスプレイを縦置きにした場合、画面の幅は約535mmです。左右に8%ずつ余白を取ると、使える幅は約450mm。ここに3mの実務値を当てはめると、次のようになります。

  • 60ptなら1行あたり約21文字
  • 80ptなら1行あたり約16文字
  • 90ptなら1行あたり約14文字

つまり、43インチ縦型を3m先から見せる面では、主役の1行は多くて15文字前後ということです。「15文字以内」という目安は、ここから来ています。

現場でこれを毎回計算する必要はありません。自社の主要な面について一度だけ計算し、面ごとに「1行◯文字まで」を決めて共有する。 これだけで、制作の議論から「もう少し小さくすれば入る」という選択肢が消えます。入らないものは入らない、と規格で言えるようになります。

入れたい要素を落とすときの優先順位

それでも入れたい要素は必ず出ます。落とす順番は、次の3つの問いで決めてください。

  1. その情報は、いま画面の前にいる人が意思決定に使うか。 使わないなら落とします。会社概要、沿革、受賞歴の大半はここで落ちます
  2. その情報は、他の場所で取れるか。 店内のPOP、メニュー、Webサイト、スタッフの説明で取れるなら、画面から落として構いません。画面は一次接触の道具であって、情報の保管場所ではありません
  3. 落としたときに、区間3の行動が成立しなくなるか。 成立しなくなるなら残します。成立するなら落とせます

この順で見ていくと、たいていは要素が半分になります。特に2は効きます。サイネージに載っている情報の多くは、他の媒体でも取れます。 取れないものだけを画面に残すと考えると、判断が速くなります。

差し替えに耐えるテンプレートの作り方

ここまでで1枚の設計は決まりますが、運用が続くかどうかは別の問題です。

毎回ゼロから作ると、運用は止まる

サイネージ運用が止まる原因として最も多いのは、機材の不具合ではなく制作が回らなくなることです。親記事の原則2でも、更新の運用ルールを先に決めるべきだと書いています。

止まる理由は単純で、毎回ゼロから作っているからです。1枚に30分かかると、週2枚でも月4時間。店舗の業務に4時間の空きはありません。3週間で滞り、2か月で止まります。

固定枠と可変枠を分ける

対策は、1枚を枠に割って、触る枠と触らない枠を分けることです。

中身 更新頻度 触る人
固定枠 ロゴ・書体・配色・各要素の位置とサイズ 原則、触らない 本部・制作
季節枠 背景・季節のあしらい・フェアの意匠 四半期 本部
可変枠 主役の訴求1行と写真1枚(区間1・2) 週次 店舗
行動枠 QR・価格・期限のうち1つ(区間3) 訴求とセット 店舗

店舗が週次で触るのは下2枠だけです。ここを写真1枚と文字1行に限定できると、差し替えは数分で終わります。

店舗に渡すのは、可変枠と行動枠だけです。 レイアウトを触らせないことが重要で、自由度を残すと「今回だけ文字を小さくして2行入れる」が始まり、設計が1か月で崩れます。可変枠には文字数の上限を設定し、超えたら入力できない形にしておくのが確実です。

固定枠を作る手間は最初の一度だけです。ここに時間をかけたほうが、その後の運用が軽くなります。

マルチチャネルの素材と共通化する

もう一つ、制作の負荷を下げる論点があります。同じ商品・同じ訴求なのに、チャネルごとに作り直しているという問題です。

飲食店なら、料理を撮影し、Instagram用の画像を作り、Googleビジネスプロフィール用の写真を整え、デリバリーアプリ用の画像を作り、自社サイト用を作り、そしてサイネージ用を作る。本来は同じ素材なのに、縦横比・尺・文字量の仕様が違うために一から組み直しています。この構造は飲食店小売店の記事でも、運用が止まる最大の要因として挙げています。

対策は撮影の段階にあります。撮る時点で、最も制約の厳しい仕様に合わせて余白を持たせて撮る。 サイネージの縦型は制約が厳しい部類なので、ここに合わせて撮っておくと、他のチャネルへは切り出しで対応できます。撮ってから合わせようとすると、たいてい寄りすぎていて使えません。

サイネージとSNSを組み合わせて商圏に届ける設計は、店舗SNSが商圏に届かない理由|サイネージ×SNS連携で作るエリア認知の設計で扱っています。

比較できる形で作る

最後に、作る段階でやっておくと後で効くことを一つ。

一度に変えるのは1要素だけ

コンテンツを差し替えるとき、写真もコピーもQRの位置も同時に変えてしまうと、結果が変わっても何が効いたのか分かりません。 次に活かせないので、毎回ゼロからやり直しになります。

変えるのは一度に1要素です。今週は写真だけ、来週はコピーだけ。地味ですが、3か月続けると「自店では何が効くか」が形になって残ります。

対にして作る

もう一歩進めるなら、最初から対で作ることです。訴求Aと訴求B、写真だけ違う2枚。同じ面で日ごとに交互に出せば、面の条件は自動的に揃います。

作る手間はほぼ変わりません。1枚作るときに、変える箇所を1つ決めてもう1枚作るだけです。この習慣があるかどうかで、半年後に手元に残る情報がまったく違います。

ここから先、どう測って何を見るかは、サイネージ効果測定の設計|掲出面の条件差を揃える比較設計と計測の実装で扱っています。 本記事は作る側、あちらは測る側です。対で読んでいただくと、作って測って次に返す流れがつながります。

やってはいけないこと

実務でよく見る失敗を、対処とあわせて挙げておきます。

  • 紙のポスターをそのまま表示する。 紙は立ち止まって読む前提で作られているため、文字が小さく要素が多くなっています。画面に出すと、ほぼ読まれません。流用するなら、区間1・2・3に該当する要素だけを抜き出して作り直します
  • アニメーションで見せ場を作る。 動きは注意を引きますが、動いている間は読めません。通行客は途中から見るため、ループのどこから見ても意味が通ることのほうが重要です
  • QRを隅に小さく置く。 読み取りには一定の大きさと、立ち止まれる場所が要ります。通行しながら読み取れる状況はほとんどないので、QRを置くのは滞在時間のある面に限ります
  • 法令表示や注意書きを画面に入れる。 読めない大きさで入れても、表示したことにはなりません。表示義務のあるものは、画面ではなく紙やメニューなど、読める媒体で対応してください
  • 全店で同じ1枚を配る。 レイアウトは共通で構いませんが、可変枠まで本部が決めると、現場の実態とズレたまま流れ続けます

よくある質問

Q. 動画と静止画、どちらがよいですか。 面の滞在時間で決まります。通り過ぎるだけの面では、静止画か、数秒で1周する短いループが向きます。待ち時間のある面(レジ前、待合)では動画が効きます。迷ったら静止画から始めてください。制作も差し替えも軽く、比較もしやすくなります。

Q. デザイナーがいません。作れますか。 固定枠さえ一度作っておけば、可変枠の差し替えは文字入力と写真の入れ替えだけです。最初の固定枠づくりだけ外部に頼み、以降を内製する形が現実的です。どこまで内製するかの判断軸はデジタルサイネージ運用は内製か外注かで扱っています。

Q. 文字は何色がよいですか。 配色の一般則(背景とのコントラストを取る、色数を絞る)は多くの解説にあるとおりです。ただし本記事の観点から一つ加えると、色を決める前に文字サイズを確定させてください。 サイズが足りていない文字は、配色をどう工夫しても読めるようにはなりません。

Q. 15文字に収まりません。 収まらない場合、たいていは主役が2つ入っています。2枚に分けて交互に出してください。それでも収まらないなら、その情報は画面ではなく別の媒体の担当だと考えたほうが早いです。

Q. 何秒で切り替えるのがよいですか。 1枚あたり7〜10秒から始めるのが扱いやすい範囲です。短すぎると区間3まで届かず、長すぎると同じ画面を見続けることになります。ただし最適値は面の滞在時間で変わるため、まず固定で始めて、あとから1要素だけ変えて比べるのが確実です。

自社のコンテンツを見直すときに

いま出している1枚を印刷するか、スマホで撮って、次の3点を確かめてみてください。

  1. 区間1に置いているものは、意味を読まずに分かるか。 文章になっていたら、区間1が機能していません
  2. 主役の訴求は1つか。 2つ以上あれば、2枚に分けられます
  3. 区間3で渡している行動は1つか。 4つ載っていたら、その面の役割から1つを選びます

この3点だけでも、たいていの画面は作り直せます。文字サイズの上限は、自社の主要な面について一度計算して共有しておくと、以降の議論が速くなります。

当社はデジタルサイネージ(タウンビジョン)の運用をお手伝いしています。コンテンツ設計やテンプレートづくりについてのご相談は、お問い合わせフォームからご連絡ください。面の数と視距離、いま出している画面を添えていただくと、初回から具体の議論に入れます。

補足

※1 「最小可読」と「通行中に読める」は別のもの
JIS S0032:2003 が定めているのは、静止した観測条件で1文字を80%以上の正答率で読める下限です。通行中に一瞬で読む状況や、複数文字をまとまりとして読む状況は規格の対象外であり、規格の値をそのまま掲出物の設計値として使うことはできません。規格自身も、用途によっては推定結果よりさらに大きくするなど、取扱いに注意すべきだと述べています。本記事の「2〜3倍」は、この余裕を実務でどう取るかについての当社の目安であり、規格が定めた数値ではありません。

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参考文献

  • 日本産業規格 JIS S0032:2003「高齢者・障害者配慮設計指針-視覚表示物-日本語文字の最小可読文字サイズ推定方法」(規格本文
  • 日本産業規格 JIS Z 8305「活字の基準寸法」(ポイントの定義)

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