サウナで地域活性化|静岡サウナ協議会95団体・3県周遊への発展史

静岡の自然・茶畑・富士山を背景にした木の屋外サウナ(サウナの県・静岡のイメージ)

「サウナの県・静岡」という一語で点在資源を束ね、協議会95団体・静岡県からの受託事業・NEXCO中日本との3県周遊へと発展した静岡サウナの実装を詳解。単体施設では弱い地域が「面」で勝つ地域ブランディングの型と再現条件を解説します。


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地域活性化の現場でよく聞くのが、「うちには目玉になる観光資源がない」「単体の施設では弱くて、隣と組めない」という嘆きです。本記事では、その壁を「サウナ」という一つのテーマで県全域を括り直すことで越えていった事例、静岡サウナ協議会の発展史を、立ち上がりの順を追って詳解します。以前の記事地域マーケティングとは|地方企業・自治体が押さえる全体設計で示した「点在する資源を一つのブランドで束ねる」という考え方が、現場でどう形になったのかを示す一本です。

本記事では、静岡サウナ協議会の広がりを次の3点から読み解きます。①ブランドで「面」をつくる:単体のサウナ施設をPRするのではなく、「サウナの県(静岡)」というブランドに括り直し、温浴・食・観光・隣県へと波及させた/②時間軸で読む:拙著で戦略仮説として記した段階から、協議会設立・会員95団体・静岡県からの受託事業・3県周遊プランまで、数年で実装が進んだ差分に意味がある/③「空欄を残す」設計:「サウナの県」という一語だけを固定し、誰が何を足すかを開けておいたからこそ、周辺施設や隣県が後から乗ってこられた。

静岡サウナ協議会による地域活性化とは、個々のサウナ施設を別々に売り出すのではなく、「サウナの県・静岡」という一つのブランドに地域の温浴・食・観光資源を括り直し、業界団体(協議会)・会員ネットワーク・行政連携・隣県アライアンスを段階的に積み上げることで、単体施設では届かない集客と送客を「面」で生み出していく、地域ブランディングの実装例です。

1. 静岡サウナ協議会とは(95団体・3県周遊の全体像)

静岡サウナ協議会の骨格は、「サウナ」という一つのテーマのもとに、立場の違う事業者を一枚のネットワークに束ねている点にあります。1施設・1社の努力ではなく、県全域の事業者が同じ看板を共有することが、この取り組みの設計思想です。

静岡サウナ協議会は2024年2月に設立された一般社団法人で、当社代表の後藤晃が設立時から理事(現在2期目)を務めています。会員数は95団体に達し、定期的なイベント開催、静岡県から受託した事業、さらに山梨・長野の同種団体との連携へと活動を広げています。

ここで注目したいのは、最初に「協議会」という器を置いたことです。一つの人気施設が単独で発信するのではなく、競合関係にもなりうる県内のサウナ・温浴事業者を同じテーブルに乗せたことで、「静岡=サウナ」という認知を県全体の資産として育てる土台ができました。地域活性化は「目立つ一社の一人勝ち」で終わりがちですが、静岡サウナは最初から業界団体として面で設計されている点が、その後の広がりを分けています。

この協議会の活動が外向きに最も分かりやすく結実したのが、隣県と高速道路会社を巻き込んだ3県周遊プランです。

2026年3月(受付は2月から)、NEXCO中日本(中日本高速道路株式会社)と一般社団法人静岡サウナ協議会が主催し、山梨県アウトドア聖地化実現協会・信州サウナ同盟が共催する「速旅(はやたび)FUJI-ALPS SAUNA LOOP」が始動しました。静岡・山梨・長野の3県にまたがるアウトドアサウナ12施設を対象に、高速道路の指定エリア定額周遊パスと各施設のサウナ利用券をセットにしたプランです(速旅 FUJI-ALPS SAUNA LOOP 公式)。

単体のサウナ施設が、高速道路会社の周遊商品の中核になる——この到達点は、後述する「サウナの県」というブランド設計の積み上げがあって初めて成立しています。その順序を見ていきます。

2. 物語の起点:なぜサウナだったか(「サウナの県」をつくるブランド化の仮説)

静岡サウナの取り組みは、行政の大型予算から始まったわけではありません。起点は、「サウナ」という一点突破のテーマで、県内に点在する温浴・食・観光資源を一つに束ねられないかという、マーケティング上の仮説でした。

拙著『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)第二章 pp.75-78では、サウナをブランド化することで県内に点在する温浴施設にもスポットライトを当て、さらに食文化と組み合わせて地域の魅力を再編集する、という戦略仮説を記しました。これは、確立ブランドを別カテゴリへ広げる「ブランド・エクステンション」ではなく、サウナという旗のもとに地域資源を束ねてブランドをゼロから立ち上げる、デスティネーション・ブランディング(地域そのものを目的地としてブランド化する手法)に当たります。

ここで効いているのは、「静岡には何もない」ではなく「静岡にはサウナを核に束ねられる資源がある」と資源の見方を組み替えたことです。温泉、湧水、富士山の眺望、海の幸・山の幸——個別に見れば全国に競合がある資源も、「ととのうための環境(水・自然・食)が揃った県」という一つの物語に括り直すと、独自の輪郭を持ちます。地域ブランディングの出発点は、新しい資源を探すことではなく、手元の資源を束ねる「軸」を一つ決めることだ、という考え方です。

この「サウナの県」という軸が、その後の協議会化・会員拡大・隣県連携という展開の、すべての土台になっています。

3. 段階発展モデル:仮説から3県周遊まで

静岡サウナの発展は、一足飛びに起きたわけではありません。軸を決める→器をつくる→仲間を増やす→公的後ろ盾を得る→面を広げるという順序で、段階的に積み上がっています。

段階 内容 効いていること
①軸の設定 「サウナの県・静岡」というブランド仮説(拙著第二章) 点在資源を束ねる旗を立てる
②器の組成 2024年2月、一般社団法人 静岡サウナ協議会を設立 一社依存でなく業界団体として面で持つ
③仲間の拡大 会員95団体/定期イベント開催 県内の事業者が同じ看板を共有する
④公的後ろ盾 静岡県から受託した事業 民間の旗に行政の信用と継続性が乗る
⑤面の拡張 山梨・長野の団体と連携、NEXCO中日本と3県周遊プラン 県境と移動手段まで巻き込み送客を設計

この順序にこそ意味があります。先に大型イベントや派手なキャンペーンを打つのではなく、「軸」と「器」を先に固めてから、仲間・後ろ盾・面の拡張を順に乗せている点が、息切れしない設計です。地域活性化の取り組みが単発のイベントで燃え尽きやすいのは、軸と器を飛ばして集客施策から始めるからです。

とくに④の静岡県から受託した事業は転換点です。民間の有志が立てた「サウナの県」という旗に、行政の信用と継続性が乗ることで、一過性のブームではなく地域の施策として定着する足場ができました。民が旗を立て、官の信用が後から加わる——この順番が、補助金ありきで始めるより健全に機能しています。

4. なぜ面で広がったか:「サウナの県」という空欄の設計

なぜ静岡サウナは、温浴施設だけでなく食・観光・隣県・高速道路までも巻き込めたのでしょうか。鍵は、「サウナの県」という旗を、あえて中身を作り込みすぎずに掲げたことにあります。

「○○温泉郷を売る」と具体的に決め切ると、その温泉郷の事業者しか当事者になれません。一方「サウナの県」という一語は、誰が何を足すかの余白(空欄)を大きく残しています。だからこそ、

  • アウトドアサウナの新規施設は「サウナの県の一員」として乗れる
  • 飲食店は「サウナ飯(サ飯)」という切り口で乗れる
  • 自治体は「サウナで関係人口・観光」という文脈で乗れる
  • 隣県(山梨・長野)は「FUJI-ALPS」という広域の括りで乗れる
  • 高速道路会社は「周遊して移動する需要」として乗れる

一つの旗に対し、それぞれの主体が自分の資源を持ち寄って空欄を埋めていく。この「中心を一語で固定し、周辺に余白を残す」設計は、強いブランドが共通して持つ構造です。中心を決め切らずに曖昧にすると誰も動けず、中心を作り込みすぎると他の主体が入る隙がなくなる。「サウナの県」は、その中間の絶妙な解像度で旗を立てています。

地域活性化で「コンセプトを精緻に作り込んだのに誰もついてこない」という失敗がよく起きます。静岡サウナはその逆で、あえて余白を残した一語に、各主体が自分の事業文脈で乗ってこられたことが、面的な広がりの正体です。

5. 当社(デジタルプロモーション)代表・後藤の関与

静岡サウナの取り組みにおける当社の関わりは、代表・後藤晃が協議会の理事として内側から関与し、その過程をマーケティングの実例として言語化・発信している点にあります。

  • 当事者としての関与:後藤は2024年2月の設立時から理事を務め(現在2期目)、「サウナの県」というブランド設計が、仮説から業界団体・行政連携・隣県周遊へと実装されていく過程に、運営の内側から関わっています。外から観察した事例ではなく、当事者として制約と判断を引き受けてきた一次情報です
  • 知見としての言語化:この取り組みの戦略仮説は、後藤の著書『マーケティングで挑む地域創生』第二章に「サウナをブランド化する」構想として記述されており、当社が地域マーケティングの設計知見を持つことの裏付けになっています
  • 当社としての支援:デジタルプロモーションは、この取り組みをプロモーション面で支援しています。理事としての関与で得た現場の手応えを、発信・プロモーション設計の実務に還元する立場です

「外から指導して撤退するコンサル」ではなく、地域の取り組みに当事者として入り、そこで得た型を他地域へ持ち運ぶ——この立ち位置が、当社が地域ブランディングを語るときの一次情報の源泉になっています。

6. 型として抽出する:単体が弱くても「面」で勝つ

静岡サウナの物語を、他地域でも再現できるとして抽出すると、設計思想は一点に集約されます。それは「個々の資源を磨くより先に、それらを束ねる『軸』を一つ決める」ことです。

ありがちな実装 静岡サウナモデル 効いている理由
個別施設をそれぞれPRする 「サウナの県」という一語で束ねる 単体では弱い資源が面で強くなる
コンセプトを精緻に作り込む あえて余白(空欄)を残す 各主体が自分の資源で参加できる
一社・一施設が発信 協議会(業界団体)として持つ 一社が抜けても旗が残る
イベントから始める 軸→器→仲間→後ろ盾→面の順で積む 単発で燃え尽きず定着する
自県だけで完結 隣県・高速道路まで広域で括る 移動需要ごと送客を設計できる

「束ねる」のはタダではない:競合をどう同じ船に乗せるか

ただし、この型は万能ではありません。競合関係にもなりうる事業者を一つの協議会に束ねるには、相応の調整コストがかかります。「なぜあの施設が前に出るのか」という不公平感、会費や労力の負担の偏り、温度差——束ねるほどに、こうした摩擦は必ず生まれます。

静岡サウナでこれが機能しているのは、「サウナの県」という、誰か一社の利益ではない上位の旗を中心に置いているからです。個社の集客ではなく「県全体の認知向上」という、全員が乗れる共通目的を旗にすると、競合が同じ旗の下で協働者に変わります。束ねる軸が「特定の誰かが得をするもの」だと空中分解し、「全員の土台になるもの」だと続く。ここが、地域でネットワークを組むときの勘所です。

7. この事例の制約・判断・結果・再現条件

  • 制約:静岡は温泉・湧水・富士山の眺望・食といった資源を持つ一方、それぞれは全国に競合があり、「単体の施設・資源では決め手に欠ける」「事業者が個別に動いていて面にならない」という、多くの地域に共通する構造的課題を抱えていた。
  • 判断:個別資源を磨く前に、「サウナの県・静岡」という一つの軸でそれらを束ね直すことを選択。そのために、人気施設の単独発信ではなく一般社団法人(協議会)という器を2024年2月に組成し、競合関係にもなる事業者を同じ看板の下に集めた。後藤は理事として当事者で関与した。
  • 結果:会員95団体のネットワーク、定期イベント、静岡県から受託した事業へと発展。さらに山梨・長野の団体と連携し、2026年にはNEXCO中日本との「速旅 FUJI-ALPS SAUNA LOOP」(3県・アウトドアサウナ12施設の高速道路周遊プラン)として、県境と移動手段まで巻き込む広域施策に到達した。
  • 再現条件:①点在する資源を束ねられる「軸(テーマ)」を一語で立てられる/②競合も乗れる上位目的(個社利益でなく地域全体の認知)を旗にできる/③一社依存でなく業界団体・協議会という器を持てる/④民が旗を立てたあとに行政の後ろ盾を乗せる順序を取れる。この条件が揃わない地域では、まず「軸」を一つ決めるところから始める。

8. 自分の地域で「サウナの県」型を再現するには|地域ブランディングの始め方

他地域の経営者・自治体担当者がこの型を参考にする場合、いきなり協議会や広域連携から入る必要はありません。まず束ねる軸を一語で決め、器をつくり、後から仲間・後ろ盾・面を乗せるのが現実的な順序です。

  • 資源はあるが散らばっている地域:個別PRをやめ、それらを束ねる「軸(テーマ)」を一語で言い切れるか検討する。軸は新規開発でなく、既存資源の再編集で見つける
  • キーになる事業者が一社突出している地域:その一社の発信に頼らず、競合も乗れる「協議会」型の器に移せないか検討する。一社依存は、その一社が止まると全部止まる
  • 民間の有志で動き出した地域:熱があるうちに、自治体の事業・委託という公的な後ろ盾を取りにいく。民の旗に官の信用が乗ると、一過性で終わらない

重要なのは、精緻なコンセプトや大型イベントから始めるのではなく、「中心を一語で固定し、周辺に余白を残した軸」を立てて、各主体が乗れる状態をつくることです。静岡サウナも、仮説から3県周遊まで段階的に積み上がりました。

9. まとめ・関連記事

静岡サウナ協議会の発展史から他地域が持ち帰れる要点は、次の3つです。

  1. 資源を磨く前に軸を決める:「サウナの県」のように、点在資源を束ねる一語を立てる
  2. 中心は固定し、周辺に余白を残す:作り込みすぎず、各主体が自分の資源で乗れる空欄を残す
  3. 軸→器→仲間→後ろ盾→面の順で積む:イベントから始めず、業界団体と行政連携を土台に広域へ広げる

「サウナの県」型のような地域ブランディングの設計・実装でご相談がある方は、デジタルプロモーションへお問い合わせください。


よくある質問(FAQ)

Q1: 目玉になる観光資源がない地域でも、この型は使えますか? むしろ「決め手になる単体資源がない」地域にこそ向いた型です。静岡サウナの出発点も、新しい資源を発掘したのではなく、温泉・湧水・自然・食という既にある資源を「サウナの県」という一語で束ね直したことでした。重要なのは資源の数ではなく、それらを括る軸を一つ決められるかどうかです。

Q2: 競合になる事業者を、なぜ同じ協議会に束ねられるのですか? 中心に置く旗が「特定の一社の利益」ではなく「地域全体の認知向上」という上位目的だからです。個社の集客で競い合う相手も、「県全体を有名にする」という目的なら同じ船に乗れます。束ねる軸を全員の土台になるものに設定することが、競合を協働者に変える条件です。

Q3: 行政の関与はどの段階で必要ですか? 静岡サウナは、民間の有志が「サウナの県」という旗を立て、協議会を組成した後に、静岡県から受託した事業という公的な後ろ盾が乗りました。最初から行政主導・補助金ありきで始めるより、民が旗を立ててから官の信用を乗せる順序のほうが、一過性で終わりにくく機能しています。

Q4: 小さな自治体・少ない事業者でも始められますか? 協議会95団体や3県周遊は到達点であって、出発点ではありません。まずは束ねる「軸」を一語で決め、賛同する数社で器(任意団体でも可)をつくるところから始められます。静岡サウナも仮説から段階的に積み上げており、最初から大規模だったわけではありません。

Q5: DP(デジタルプロモーション)はこの取り組みに何をしているのですか? 当社代表の後藤晃が協議会の理事(現在2期目)として、設立時から当事者として関わっています。加えて、当社デジタルプロモーションとしても、この取り組みをプロモーション面で支援しています。外部から指導して撤退するのではなく、地域の取り組みの内側に入り、そこで得た「資源を軸で束ねる」型を言語化し、他地域の地域ブランディング設計に持ち運ぶ立ち位置です。

Q6: 「サウナ」でなくても再現できますか? できます。重要なのはテーマが「サウナ」であることではなく、点在する資源を束ねられる一語を立て、各主体が乗れる余白を残すという構造です。コーヒー、クラフトビール、自転車、星空——その地域の資源を最も自然に束ねられる軸であれば、テーマは何でも構いません。

「サウナの県」型の地域ブランディングを自分の地域で再現する相談は、デジタルプロモーションからお問い合わせください。


参考文献


最終更新日:2026-06-11/公開予定:2026-06-12 著者:後藤晃(株式会社デジタルプロモーション 代表取締役社長)。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)シェア出版『「ゼロイチ」の挑戦 Vol.2』第10章寄稿。静岡サウナ協議会理事として、地域ブランディングの設計・実装に当事者として関与。


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