地域マーケティングは、ご当地キャラやふるさと納税の話に閉じる概念ではありません。地方の経営者と自治体管理職が事業や政策の中核に据えるべき、長期の経営テーマです。本記事では「地域資源をどう見せるか」より一段深く、誰を巻き込むか/予算をどこに使うか/何をKPIにしないかという実行体制の論点を中心に整理します。
本記事の独自視点は次の3点です。①実行体制論を前に出す:地域資源論より「誰を巻き込むか」の体制設計を主軸にする/②4P+Cフレーム:伝統的な4Pに「C=Community」を加えた予算配分の考え方/③KPI落とし穴の明示:「測れるが意味のない指標」と「測りにくいが意味のある指標」を区別する。地域ブランディング・シティプロモーション・ローカルマーケティングといった隣接概念との関係も整理します。
本記事は次の流れで進めます:①定義と類語整理/②なぜ今/③体制設計/④予算優先順位/⑤KPI設計/⑥全体設計フレーム/⑦事例/⑧3つのステップ/⑨まとめ。
地域マーケティングとは、特定の地域を市場・主体・ブランドの3軸で捉え、地域内外の経済循環と関係性をデザインする経営活動です。一般マーケの4PやSTPは使えますが、意思決定者が自治体・地元企業・住民・関係人口と複数になるため、実行体制とKPIの設計こそが本丸になります。
1. 地域マーケティングとは(定義・一般マーケとの違い)
地域マーケティングは、対象を「特定地域」に固定したうえで、企業の事業マーケティングと自治体のシティプロモーションの両方を内包する上位概念です。一般のマーケティングが単一企業の利益最大化を目的にするのに対し、地域マーケティングは地域内外の経済循環・人口移動・関係性の総和を目的に置きます。
一般マーケとの違いを整理すると、次の3点に集約できます。
- 主体が複数:単一企業ではなく、自治体・地元企業・住民・関係人口の4〜5主体が同時に意思決定者になります。STP分析の前に「誰の合意で動くのか」を設計する必要があります。
- KPIが多層:売上やLTVだけでは語れず、関係人口の質、地域内事業者の連携度、地域メディアのオーガニック比率、地域経済循環率など、複数の時間軸のKPIを束ねます。
- 時間軸が長い:単年の広告KPIで評価しきれず、5年〜10年で資産化する施策が中心です。即効性のあるキャンペーンは入口にすぎません。
混同しやすい類語の関係も押さえておきます。
- 地方創生/地域創生:国の政策フレーム(地方創生交付金など)。地域マーケはその実行手段のひとつ
- シティプロモーション:自治体主体の認知・ブランディング活動。地域マーケの一部
- 地域ブランディング:地域名そのものの資産化(Place Branding)。地域マーケの中核手段のひとつ
- DMOマーケティング:観光地域づくり法人(Destination Management Organization)が担う観光主体のマーケ。地域マーケのうち観光領域に特化したもの
- 地域商社:地域の産品流通・販路開拓・拠点運営を担う地域内事業会社。地域マーケの実装主体になりうる
地域マーケティングはこれらを束ねる上位概念であり、自治体・企業・住民の関与を統合設計する点で、いずれの隣接概念とも一線を画します。
地域マーケティング・エリアファンマーケティング・エリアマーケティングの3層関係
実務でよく混同されるのが、「地域マーケティング」「エリアマーケティング」「エリアファンマーケティング」の3つです。3者は対立概念ではなく、カバーするレイヤが違う3層構造として整理できます。
| レイヤ | 名称 | 守備範囲 | 主体 | 時間軸 |
|---|---|---|---|---|
| 上位 | 地域マーケティング | 地域全体の経済循環・関係性設計 | 自治体×地元企業×住民×関係人口 | 5〜10年 |
| 中位 | エリアファンマーケティング | 特定エリアの関心層を継続的にファン化する設計(メディア+リアル両輪) | 地域メディア運営者+地元事業者+関係人口候補 | 3〜5年 |
| 下位 | エリアマーケティング | 商圏単位の店舗集客・来店促進・店舗イベント | チェーン本部のエリアマネージャー/単一店舗 | 1年以内 |
地域マーケティングは最上位概念で、自治体予算・住民参画・関係人口を含む経営活動全体を扱います。エリアマーケティングは実行レイヤで、商圏分析・店舗集客・来店促進・店舗イベントといった「明日の売上に効く」短期施策を扱います。両者の間に位置するのが、当社が拙著『マーケティングで挑む地域創生』第四章で提唱したエリアファンマーケティングです。
エリアファンマーケティングは、エリアマーケの「商圏単位の店舗集客」と、地域マーケの「地域全体の関係性設計」をつなぐ中間レイヤで、地域メディアによるファン醸成とリアル接点(拠点・イベント)の両輪でエリアの関心層を継続的にファン化する設計です。タウンビジョン等のサイネージ・メディア網を持つ事業者と、地域内のリアル拠点が連動することで成立します。
3者の使い分けの目安は次の通りです。
- 地域マーケティング:自治体政策・関係人口・地域経済循環を扱うときの上位フレーム
- エリアファンマーケティング:地域メディアと地元事業者を組み合わせ、エリア内の継続関与を設計するときの中位フレーム
- エリアマーケティング:単一店舗・チェーン店の商圏単位で集客・来店促進を行う実行フレーム
ピラー記事である本稿は最上位の「地域マーケティング」を主軸に扱い、エリアファンマーケティングは関連クラスター記事「エリアファンマーケティングとは」(公開予定)で、エリアマーケティングはピラー記事「エリアマーケティングとは|店舗集客と商圏設計の実務」で扱います。
2. なぜ今、地域マーケティングが経営アジェンダか
地域マーケティングを経営の中心に据える必要が高まっているのは、人口動態・関係概念・制度・情報流通・需要構造の5つの環境変化が同時に進行しているからです。
第一に人口減少です。総務省の人口推計によると、日本の総人口は2008年をピークに減少局面に入り、地方圏の減少速度は都市圏を上回り続けています。地域内の消費だけを当て込む販促は、母集団そのものが縮む構造で持続性を失います。
第二に関係人口という概念の制度化です。総務省は2018年から「関係人口」を、地域外に居住しながら地域と継続的に関わる人々と定義し、移住人口(定住)と交流人口(観光)の中間概念として政策に組み込みました。2024年には総務省が「関係人口」の捉え方の更新と地域への関わり方の多様化を反映した整理を進めており、地域外の人をどう「関係させ続けるか」という設計が地域マーケの新しい主戦場になっています。
第三に地方創生2.0と新しい交付金制度です。2014年のまち・ひと・しごと創生法以降、地方創生関連の交付金は形を変えながら継続しており、2024年末に政府は「地方創生2.0」基本構想を打ち出し、2025年度からはデジタル田園都市国家構想交付金の後継として**「新しい地方経済・生活環境創生交付金」**が地域社会再生の中核ツールとして運用されています。自治体側に「成果が説明できる地域マーケティング」を求める圧力は、過去のサイクルよりさらに強まっています。
第四にAI Overviewsと生成AI検索の普及です。検索結果の上位にAIが要約を生成する仕組みが定着しつつあり、地域情報の流通構造は「検索1位を取る」から「AIに引用される一次情報を持つ」へと急速にシフトしています。地域メディアやオウンドメディアを自前で持ち、E-E-A-T(経験・専門性・権威性・信頼性)を満たした一次情報を蓄積できるかどうかが、地域内外への発信力に直結する局面に入っています。
第五にインバウンド需要とオーバーツーリズムです。観光庁の統計によると、2024年の訪日外客数は3,687万人で過去最多を更新し、地域経済におけるインバウンド比率は急上昇しました。一方で観光客の集中による地域住民の生活圧迫(オーバーツーリズム)が全国の主要観光地で顕在化し、地域マーケは「人を呼び込むだけ」から「人と地域の摩擦を設計し直す」段階に入っています。加えて2025年10月のふるさと納税ポータル規制改正(ポータルサイトでのポイント付与禁止)により、自治体側の財源獲得チャネルが再編されつつあります。
要点は、地域マーケティングを「やった方がよい施策」ではなく、5つの構造変化に対応するための経営活動として位置付け直すことです。
3. 地域マーケティングの体制設計:「誰を巻き込むか」
地域マーケティングで最初に決めるべきは、商品でも予算でもなく、意思決定者の構造です。単一企業のマーケティングと違い、複数主体の合意で初めて施策が動きます。
主体を整理すると、次の4軸+関係人口の5主体になります。
| 主体 | 役割 | 関与の重み |
|---|---|---|
| 自治体 | 制度・予算・公共資産の活用承認 | 政策連動の入口 |
| 地元企業 | 商品・サービス・人材・拠点の提供 | 持続性の主役 |
| 住民 | 受容と参画、地域の体験価値の源泉 | 中長期の正統性 |
| 観光客 | 短期の経済流入と認知拡散 | 入口の指標 |
| 関係人口 | 継続関与による中長期の経済循環 | 資産化の鍵 |
5主体の中で軽視されがちなのが関係人口ですが、AI時代の地域マーケでは最重要の設計対象です。観光客は一度きりで終わりますが、関係人口は地域の自前メディアや拠点を介して長期に関わり、地域外から地域内への送客や投資の起点になります。
体制設計でよく見る3つの失敗パターンを明示しておきます。
- 行政主導型の失敗:自治体が交付金で動かす施策に、地元企業が「やらされ仕事」として参加する。継続性が出ず、交付金が切れた瞬間に止まります。
- 企業主導型の失敗:地元の有力企業が単独で進めると、住民の参画が遅れ、地域の正統性が後付けになります。施策の規模が大きいほど反発が出やすくなります。
- 外部コンサル主導型の失敗:東京資本の伴走者が主導権を握り、撤退と同時に推進力が消える。地方で最も頻発するパターンで、地域内に主体が育たないまま施策の外形だけが残ります。
3つを避ける構造として、拙著『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)第三章でも触れていますが、内側のハブとなるコミュニティマネージャー機能を独立して持つ設計が有効です。自治体でも単一企業でもない第三の主体が、複数主体の調整役を担う形です。長崎県大村湾地域での実装例はクラスター記事「大村湾モデル詳解」で詳しく扱います。
体制設計の要点は、4〜5主体のうちどの主体が抜けても止まらない冗長性を最初から組み込むことです。社長視点では「自社が抜けても回る構造」を、自治体課長視点では「担当者が異動しても継続する構造」を、それぞれ最初に設計することが要諦になります。
4. 地域マーケティングの予算優先順位:「何に使うか」
地域マーケティングの予算配分でよくある失敗は、短期の広告・PRに集中してしまい、中長期の資産が残らないことです。広告は出稿が止まれば認知も止まりますが、地域マーケで本当に効くのは、出稿が止まっても流通し続ける自前の資産です。
予算は時間軸で3層に分けて配分するのが基本になります。
- 短期(〜6ヶ月):認知獲得
- 広告、PR、外部メディアタイアップ、SNS運用
- 即効性はあるが、停止と同時に効果も止まる
- 中期(6ヶ月〜2年):関係構築
- イベント、コミュニティ運営、体験設計、関係人口プログラム
- 短期の認知を関係に転換する。継続性が問われる
- 長期(2年〜5年以上):基盤化
- 自前メディア、データ蓄積、拠点運営、人材育成、地域パートナー網
- 出稿が止まっても流通し続ける資産になる
予算の優先順位は、案件の段階と地域の成熟度で変えますが、長期の基盤化に最低でも3割を継続投下することが、施策の資産化の最低ラインです。この「3割」は拙著の地域創生フレームと、当社が大村湾モデルや静岡サウナ協議会の実装観察から導いた経験則であり、絶対値ではなく**「これを下回ると資産化が始まらない閾値」**として読んでください。短期広告で消費するだけの予算は、地域マーケの本質から外れます。
伝統的な4P(Product/Price/Place/Promotion)にC=Communityを加えた「4P+C」のフレームが、地域マーケの予算配分には適合します。Communityへの投資は中長期側の3層に該当します。地域マーケの予算配分は、4Pの枠だけで判断すると確実にCommunity投資が後回しになるため、最初からC枠を別建てで確保するのが実務上の工夫になります。
予算の意思決定で押さえておきたい読者別の論点は次の通りです。
- 地元社長視点:投資回収(ROI)の説明軸が、単年売上ではなく中長期の販路・採用・拠点運営の総和になる。短期広告での即効性に予算を寄せすぎると、3年後に資産が残らない構造が顕在化する
- 自治体課長視点:単年度予算と複数年度の事業計画をすり合わせ、議会説明で「資産化に向かう中間KPI」を3つに絞り込むことで、予算継続の合意形成が成立する
5. 地域マーケティングのKPI設計:「何をKPIにしないか」
地域マーケで最も多い失敗は、測りやすい指標を主KPIに据えてしまうことです。測りやすい指標は経営判断を歪めます。先に「KPIにしないもの」を明確にしておくと、議論の混乱を減らせます。
KPIに「しない」もの
- 単年の観光客数だけ
- SNSフォロワー数の絶対値
- 単発イベントの来場者数
- 移住者数の単年集計(複数年で見ない)
これらは数字が取りやすく、議会・株主・メディアに説明しやすい一方で、地域経済への影響と直結しません。観光客が増えても地域内消費に落ちなければ意味がなく、フォロワー数が増えても関係人口に転換されなければ資産になりません。
KPIに「する」もの
- 関係人口の質的変化(複数回訪問率、地域内活動への参画率、地域内消費額)
- 地域内事業者の連携度(共同企画件数、人材交流件数、相互送客率)
- 自前メディアのオーガニック比率(広告依存度の低下を測る)
- 地域内経済循環率(地域外への漏出と地域内還流の比率)
これらは測りにくい指標ですが、地域マーケの本質に直結します。「測れるが意味のない指標」と「測りにくいが意味のある指標」を区別し、後者を主KPIに据えるのが、地域マーケのKPI設計の核心です。
KPIの観測サイクルは、短期指標は四半期、中長期指標は半年〜年次で振り返るのが現実的です。短期KPIだけを毎月追いかける運用は、地域マーケでは過剰な反応を生みます。
KPI設計の論点は、社長と自治体課長で次のように分かれます。
- 地元社長視点:取締役会や株主向けの説明用に「四半期で動く短期KPI」を最低1つ持ちつつ、本丸KPIは中長期に据える二段構え
- 自治体課長視点:議会・住民・庁内向けに「年度内で示せるKPI」を最低1つ持ちつつ、地方創生交付金の評価指標と地域マーケKPIの整合性を最初に設計
KPI設計の詳細フレームと自治体予算サイクルとの接続は、関連クラスター記事「地域マーケのKPI設計詳解」(公開予定)で扱います。
6. 地域マーケティングの全体設計フレーム:4軸マトリクス
§3(体制設計)/§4(予算優先順位)/§5(KPI設計)の論点を統合する全体設計フレームを提示します。一般マーケの4Pは「単一企業の打ち手」の整理に向きますが、地域マーケは複数主体・複数時間軸の活動なので、4つの軸でマトリクス的に設計する方が実装しやすくなります。地域ブランディングや地域商社の機能配置も、この4軸の中で位置付けます。
地域マーケティング 4軸フレーム
| 軸 | 設計対象 | 主な問い |
|---|---|---|
| 強み軸 | 自社(自治体)の強み | 何を地域に提供できるか |
| 地域資源軸 | 地域固有の資源 | 何が地域の差別化要素か |
| ターゲット軸 | 主体×時間軸 | 誰に・いつ・何を届けるか |
| 実行体制軸 | 主体連携・予算配分・KPI | どう動かし続けるか |
このフレームの使い方は、各軸ごとに2〜3項目を埋め、軸同士の整合を取ることです。たとえば「強み軸」に専門メディア運営力があり、「地域資源軸」に観光資源と移住適地性があるなら、「ターゲット軸」では関係人口を中長期で取りに行く設計が筋になります。「実行体制軸」は、それを支える主体連携・予算配分・KPIを具体化する場所です。
4軸をマトリクスで埋めてから時間軸を引くのが手戻りの少ない順序です。先に短期施策から考え始めると、強み軸と地域資源軸の整合が後回しになり、施策が単発の販促に縮みます。
7. 事例:静岡サウナ協議会95社/大村湾モデル
理屈だけでは地域マーケは伝わりにくいため、当社が実装に関わった2つの事例で「実行体制論」の具体を示します。両方ともDPの実装事例として外部公開可能な範囲で扱います。
静岡サウナ協議会95社の発展史
静岡県内のサウナ事業者を束ねる静岡サウナ協議会は、当初の出版時点で数社規模の取り組みでしたが、その後の継続活動の中で県内95社規模まで拡大し、静岡県からの委託事業、3県連携、NEXCO中日本との周遊企画までを実装する地域マーケ施策に育っています。
ここでの設計の核は、サウナという単一カテゴリの店舗集客に閉じず、地域ブランドの拡張(ブランド・エクステンション)として県内全域の事業者を巻き込んだ点です。単一店舗のマーケティングが、地域協議会という主体構造に置き換わったことで、自治体予算・隣県連携・高速道路網との接続が現実的になりました。
詳細な発展史はクラスター記事「静岡サウナ協議会95社の発展史」で扱います。
大村湾モデル(長崎県大村湾地域)
長崎県大村湾地域では、地域商社・人材派遣機能・拠点・自前メディアの4点セットによる実装が進んでいます。
- 地域商社「大村湾商事」:地元の人が地域PRのために立ち上げた事業会社。施策の主体
- 人材派遣機能「andone」:大村湾商事の関連会社。コミュニティマネージャーを派遣する機能を担う
- 拠点「coto」:シェアオフィス・コワーキング・カフェの複合拠点。地元大学生も参加する地域メディアを自前運営。入居企業の約3分の1が地域外から
- DPの関与:当社はサテライトオフィス1室を実拠点として常駐し、コーポレートサイトのHP動画にも大村湾を起用
この構造は、2024年に**大村湾未来創造有限責任事業組合(LLP)**として地元企業共同出資の主体が組成され、民泊事業の展開などを通じて持続的に運営されています。
<Experience証拠ブロック>
- 制約:大村湾は既存の自治体観光予算が限定的、地域コミュニティ運営の人材属人化リスクが構造的に存在
- 判断:地域商社(大村湾商事)+人材派遣(andone)+拠点(coto)+自前メディアの4点セットで、主体機能を分離する設計を選択
- 結果:DPがサテライトオフィス1室を実拠点として常駐し、cotoは入居企業の約3分の1が地域外から。LLP組成(2024年)により持続的運営の主体が成立
- 再現条件:地域商社的な主体が地元にすでに存在する/拠点物件と運営パートナーが揃う/自前メディアの運営に5年以上コミットする意思
詳細な構造はクラスター記事「大村湾モデル詳解」で扱います。
両事例に共通する設計思想は、単一店舗・単一施策ではなく、地域全体を巻き込む主体構造を先に作ることです。これがH3で繰り返し述べてきた「実行体制論」の中核になります。
両事例は、地域マーケティングの実装事例であると同時に、§1で示したエリアファンマーケティング(中位レイヤ)の実装事例でもあります。地域メディアの自前運営とリアル拠点の組み合わせで、エリア内の関心層をファン化する設計が共通しています。
両事例の構造別深掘りは、「大村湾モデル詳解」と「静岡サウナ協議会95社の発展史」で扱います。地域マーケで似た構造を検討されている方は、DPの実装事例資料もあわせてご覧ください。
8. 自社で始める3つのステップ
地域マーケティングを自社(または自治体)で始める場合、いきなり大規模な構造を組むのではなく、3つのステップで段階的に踏み出すのが現実的です。
Step 1:巻き込み主体の棚卸し
自社・地域内で関与可能な主体を、§3の4〜5主体マトリクスで棚卸しします。
- 地元社長の視点:自社の事業と接点のある自治体部署、地元企業、住民組織、関係人口候補をリスト化
- 自治体課長の視点:施策に巻き込める地元企業、住民組織、関係人口候補、外部パートナーを棚卸し
この段階で書き出すための質問は次の5つです。
- 過去3年で一緒に何かを動かした主体は誰か
- 自社(自治体)の事業計画と地域の中期計画で、重なるテーマは何か
- 地域内で「最後の意思決定者」になる主体は誰か(多くの場合、表に出ない)
- 関与する主体のうち、抜けると致命的になる主体はどれか
- 関係人口の候補として、地域外で接点のある人・組織は誰か
この段階では理想形を描かず、現実に動かせる主体だけを書き出すのが要点です。
Step 2:予算配分の見直し
既存の販促・PR予算が、§4の3層(短期・中期・長期)にどう分散しているかを可視化します。短期広告に偏っている場合は、中長期側に最低3割を移すことを検討します。新規予算がなくても、配分のシフトだけで地域マーケの基盤化は動かせます。
Step 3:KPI設計と振り返りサイクル
§5の「KPIにしないもの/するもの」のリストを参考に、自社の主KPIを再設計します。短期指標は四半期、中長期指標は半年〜年次の振り返りサイクルで設定します。最初から完璧なKPIを設計せず、3つのKPIだけでスタートして、半年ごとに見直す運用が現実的です。
3ステップは順番に踏む必要はなく、Step 2の予算配分から始める方が自然な場合もあります。重要なのは、3つのいずれかに今日着手することです。
9. まとめ・関連記事
地域マーケティングの全体設計について、本記事で押さえた要点は次の3つです。
- 地域マーケは「実行体制論」が本丸:誰を巻き込むか・予算をどこに使うか・何をKPIにしないか、の3点で勝負が決まる
- 予算は時間軸で3層に分け、長期基盤化に最低3割を継続投下:短期広告だけでは資産が残らない
- 「測れるが意味のない指標」と「測りにくいが意味のある指標」を区別:後者を主KPIに据えるのが地域マーケの核心
各論をさらに深掘りする関連記事は、当媒体内で順次公開していきます。
- 地域創生マーケティングとは?地方創生との違いと進め方・KPI:地域創生マーケと地方創生の違い・進め方・KPI運用を実務目線で整理
- エリアファンマーケティングとは(DP独自フレーム):地域メディアとリアル接点で関心層をファン化する中位レイヤ設計
- 大村湾モデル詳解:地域商社×拠点×派遣型マネージャー×自前メディアの4点セットの実装
- 静岡サウナ協議会95社の発展史:単一カテゴリの店舗から県全域施策への拡張プロセス
- 地域ブランディング設計フレーム:地域資源軸とターゲット軸の整合の取り方
- 地域DMOとマーケティング:観光主体の地域マーケと自治体マーケの接続
- 地域マーケのKPI設計詳解:「測れるが意味のない指標」と「測りにくいが意味のある指標」の運用設計
地域マーケティングの設計や実装でご相談がある方は、DPの実装事例資料をご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 地域マーケティングと地方創生は何が違うんですか? 地方創生は国の政策フレーム(地方創生交付金など)を指し、地域マーケティングはその実行手段のひとつです。地方創生は制度・予算側、地域マーケはマーケティング活動側、と整理すると分かりやすいです。両者を混同すると、政策議論と実装議論が噛み合わなくなります。
Q2: 地域マーケに自治体予算は使えますか? 地方創生関連の交付金、観光振興予算、シティプロモーション予算など、複数の予算枠から地域マーケに充てられる場合があります。ただし単年度予算で施策が完結する設計が求められやすく、中長期の基盤化との両立が論点になります。複数年度の事業計画と単年予算のすり合わせを最初に設計するのが現実的です。
Q3: 関係人口を増やすKPIはどう設定しますか? 関係人口の絶対数だけを追うと「フォロワー数化」してしまうため、複数回訪問率・地域内活動への参画率・地域内消費額を組み合わせるのが実務的です。母集団の人数より、関係の質と継続性を測る方向に振るのが、地域マーケのKPI設計の基本姿勢です。
Q4: 単発キャンペーンと継続運用はどう使い分けますか? 単発キャンペーンは§4でいう短期(認知獲得)の入口として位置付け、中長期(関係構築・基盤化)の継続運用に流入させる設計にします。単発で完結させると、せっかくの認知が中長期の資産化につながりません。入口の単発と本体の継続を同じ設計図の上に置くのが要点です。
Q5: 中小企業1社だけで地域マーケはできますか? 1社単独で「地域マーケ」を完結させるのは構造上困難ですが、1社が起点となって複数主体を巻き込む構造を作ることは可能です。地元企業・自治体・住民組織・関係人口候補のいずれかと連携を作り、徐々に主体を増やしていく順序が現実的です。最初は2主体の連携から始めても、地域マーケの第一歩としては成立します。
地域マーケティングの全体設計や個別論点のご相談は、DPの実装事例資料からお問い合わせください。
参考文献
- 総務省「関係人口とは」(取得日:2026-05-29)https://www.soumu.go.jp/kankeijinkou/
- 総務省「人口推計」(取得日:2026-05-29)https://www.stat.go.jp/data/jinsui/
- 内閣官房・内閣府「地方創生2.0」基本構想(2024年)/「新しい地方経済・生活環境創生交付金」(2025年度〜)
- 観光庁「訪日外国人消費動向調査」「観光統計」(取得日:2026-05-29)
- 拙著『マーケティングで挑む地域創生』(2025年・AmazonPOD、後藤晃 著)第一章〜第四章
最終更新日:2026-05-29/初回公開 著者:後藤晃(株式会社デジタルプロモーション 代表取締役社長)。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)、シェア出版『「ゼロイチ」の挑戦 Vol.2』第10章寄稿。地域マーケティング・エリアマーケティングの実装支援を専門領域とする。