自治体や地域企業の現場では、地域ブランディング、シティプロモーション、関係人口の創出などを組み合わせたマーケティングの必要性が高まっています。人口減少と東京圏への一極集中が続くなか、それぞれの地域が外部とつながり、地域内の経済循環や協働を強める取り組みが、観光・移住・産業の各分野で進められてきました。本記事では、それらを実務上ひとつに束ねる枠組みとして「地域創生マーケティング」を捉え、定義から進め方、成果指標、失敗パターンまでを整理します。
なお、地域創生マーケティングは公的・学術的に確立した一語ではありません。実務の現場で使われている言葉の意味を、本記事の中で整理して用いる立場をとります。
地域創生マーケティングとは
地域創生マーケティングとは、本記事では「地域そのものを起点に置き、人・モノ・お金・情報の流れを地域に呼び込み、地域内の経済循環や協働を強めるマーケティング活動」と捉えます。
一般的な商品マーケティングが「商品やサービスをいかに顧客に届けるか」を主眼にするのに対し、地域創生マーケティングでは、地域の資源や体験価値を外部の人に伝わる形へ編集し直し、観光客・移住希望者・関係人口・地域内の生活者といった複数の対象に向けて発信します。地域の食、自然、歴史、産業、人、暮らしといった有形・無形の資源を、その地域ならではの体験として届けることが基本姿勢です。
「地域を商品として売る」発想とは少し違います。地域には住民の暮らしと文化があり、外から来る人を受け入れるだけが目的ではありません。地域の中の人と外の人、双方にとって良い状態を設計するのが、地域創生マーケティングの本質的な役割です。
「地方創生」と「地域創生」の違い
「地方創生」と「地域創生」は近い文脈で使われますが、ニュアンスはやや異なります。
- 地方創生:国の政策概念。2014年11月21日に「まち・ひと・しごと創生法」が成立し、同年11月28日に公布されました(出典:日本法令索引)。東京圏への人口集中の是正、地域での雇用創出、将来にわたって活力ある地域社会の形成などの政策目標に紐づいて語られます。
- 地域創生:本記事では、行政区分に限らず、特定の地域単位で価値を見出し、関係性や経済循環をつくる取り組みとして扱います。「地方」より広く、都市内の特定エリアや商圏、コミュニティも含みます。
マーケティングの現場では「地方創生マーケティング」と呼ばれることもあり、両者は重なる領域が多くあります。一方、政策文脈では「地方創生」、事業・エリア文脈では「地域創生」と使い分けられることもあるため、対象や読み手に応じて言葉を選ぶ姿勢が必要です。本記事では、より広い対象を扱えるよう「地域創生マーケティング」を用います。
なぜ今、地域創生マーケティングが重要なのか
背景には3つの構造的な変化があります。
1. 人口減少と高齢化の進行
日本全体で人口が減少し、地域単位では影響が先鋭的に表れます。生活者の数が減れば、地域内の経済循環はそのままでは縮小します。外部から人を呼び込み、関係を深め、消費・投資・移住へとつなげる仕組みが求められています。
2. 関係人口という政策キーワードの広がり
総務省などが政策上用いている「関係人口」は、移住した「定住人口」でも、観光に訪れた「交流人口」でもない、地域と継続的に多様な形で関わる人々を指します(出典:内閣官房「関係人口の創出・拡大」)。リモートワークの普及や、副業・プロボノなど多様な関わり方の広がりを背景に、地域外から地域に関わる人を増やす施策が、国や自治体で重視されるようになっています。地域創生マーケティングは、この関係人口との接点を設計し、継続的な関与につなげる活動でもあります。
3. デジタル接点の多様化
SNS、動画、デジタルサイネージ、検索エンジン、地図アプリ——地域が自ら発信できるチャネルは増えました。一方で情報量も増えたため、誰に、どの接点で、どの行動につなげるかを設計できるかが、成果を大きく左右します。ツールの有無ではなく、設計の解像度で差が出る時代に入っています。
一般的な商品マーケティングとの違い
マーケティングの基本フレーム「4P(Product/Price/Place/Promotion)」を地域に当てはめると、地域創生マーケティングならではの特徴が見えてきます。
- Product(提供価値):単一商品ではなく、食・景観・体験・人・文化が束になった複合的な価値。住民の暮らしと不可分です。
- Price(関与のハードル):金銭的な対価だけでなく、「訪れる時間」「関わる手間」も価格として設計する必要があります。
- Place(接点設計):物理的な場(店舗・駅・観光地)と、デジタルの接点(SNS・サイト・サイネージ)の両輪で考えます。
- Promotion(伝え方):地域の歴史・人・暮らしを物語として編集し、共感を起点に届けます。
もうひとつ大きな違いが「ステークホルダーの多さ」です。自治体、地域企業、住民、観光客、移住者、メディア、関係人口——関わる主体が多く、利害も一様ではありません。複数の関係者の合意形成と、中長期視点での運用が必須になります。
地域創生マーケティングの進め方
進め方は大きく5つのステップに整理できます。マーケティング施策の前に、地域側の現状と制約条件を押さえることが要点です。
① 現状と課題を整理する
最初に、地域の現状を事実ベースで棚卸しします。来訪者数や宿泊数、検索需要、地域内事業者の数と業種、交通アクセス、宿泊・体験の受け入れ容量、過去施策の成果と振り返り——こうした地域側の制約条件を把握することで、後続のターゲット設計が現実的になります。住民・行政・事業者へのヒアリングも、この段階で行います。
② ターゲットと提供価値を絞り込む
観光客、移住希望者、関係人口、地域住民——対象によってインサイトも導線も成果指標も違います。誰に、何を、どう届けるかを絞り込まないと、地域の魅力が多すぎるぶん訴求がぼやけます。①で整理した現状を踏まえ、「来てほしい人物像」と「その人にとっての価値」を一文で書ける状態にします。
③ 地域資源を調査・選定し、編集する
食・景観・産業・人・暮らしを調査し、ターゲットに合うものを選定したうえで、外の人に伝わる形へ翻訳します。住民が「当たり前」と感じていることほど、外から見ると独自性が高い場合が多くあります。既存データの確認、住民・事業者ヒアリング、競合地域との比較を経て、地域の文脈を尊重しながら外部の視点を入れる編集力が問われます。
④ 接点を設計する
編集したコンテンツを、どの場・どのチャネルで届けるかを設計します。代表的な手段と、それぞれが向いている目的は次のとおりです。
- シティプロモーション(向いている目的:ブランド定義・統一感の確立)
自治体が主体となり、動画・キャッチコピー・特設サイトなどを通して地域のブランドを定義します。 - コンテンツマーケティング(向いている目的:検索流入・理解促進)
地域の食・人・暮らしを取材し、記事・動画・写真として継続的に発信します。検索流入とSNS拡散を両輪に、関心を時間をかけて醸成します。 - 公式SNS・コミュニティ運用(向いている目的:日常接点・ファン化)
Instagram、X、TikTokなどで地域の日常を発信し、フォロワーを関係人口の候補として捉えます。コメントやライブ配信で関係を深めます。 - デジタルサイネージ・OOH(向いている目的:現地回遊・認知補完)
駅・店舗・観光拠点など、来訪前後や現地回遊中に接触できる場所で情報を届けます。実務上は、掲出場所の権利調整、掲出費、コンテンツ更新運用が制約条件になります。 - 関係人口プログラム(向いている目的:継続関与・担い手育成)
ワーケーション、副業マッチング、サポーター制度など、地域に継続的に関わる仕組みを設計し、一度きりの観光客を長期的な関係者へと育てます。
⑤ 継続運用と改善
動画一本、イベント一回だけで人口動態や地域内消費まで継続的に変えるのは困難です。中長期の運用を前提に、コンテンツ・SNS・サイネージ・関係人口施策を組み合わせ、データを見ながら改善を続けます。自治体計画や委託契約の周期と合わせ、無理のないPDCAを回せる体制にします。
成果を測るKPI
地域創生マーケティングは「いい話」で終わらせず、定量的に測ることが大切です。施策の成果指標と、地域側の健全性指標、効率指標の3層に分けて置くと、運用判断がぶれにくくなります。
施策の成果指標(4層)
- 認知層:地域名・施設名・キャンペーン名の検索ボリューム、SNSのインプレッション、メディア掲載件数
- 関心層:サイト流入数・滞在時間、コンテンツの読了率、SNSのエンゲージメント(保存・シェア)
- 関与層:問い合わせ数、メルマガ登録、関係人口登録、サポーター登録、来訪予約
- 行動層:実際の来訪数、宿泊数、購買額、ふるさと納税額、移住相談・移住件数、採用応募数
地域側の健全性指標
外部流入だけを追うと、住民の生活環境が圧迫されたり、一過性で終わったりするリスクがあります。次の指標を並走させ、地域そのものの状態を測ります。
- 住民満足度:来訪者増加に対する住民の受け止め、観光・PR施策への評価
- 苦情件数・混雑度:オーバーツーリズム監視のため、ピーク時の交通・公共施設の混雑、住民からの苦情件数を継続記録
- 地域内事業者の参加数:施策に巻き込めている事業者数、新規参加の推移
- 運用継続率:3年・5年単位での施策・体制の継続率、担当者の入れ替えへの耐性
- 再訪率:一度きりの来訪で終わらず、関与が深まっているか
効率指標
- 1件あたり獲得コスト(CPA):来訪1件・移住相談1件・関係人口登録1件などのコスト
- 転換率:問い合わせから来訪・相談、来訪から再訪、関係人口から移住といった、層をまたぐ転換率
すべての指標を同時に追う必要はありません。目的に応じて各層から1〜2指標を選び、施策と紐づけて見える化することで、判断と改善の速度が上がります。
失敗しやすいパターンと避け方
地域創生マーケティングでよく見られる失敗には、いくつか共通点があります。それぞれの避け方も合わせて整理します。
- 住民不在のブランディング:外部の代理店主導でロゴや動画だけ作り、住民の言葉や日常が反映されていない。発信側と地域の生活が乖離し、現地で違和感が生まれます。
避け方:設計段階から住民・事業者へのヒアリングと検討の場を継続的に持ち、発信内容に地域の声を組み込みます。 - 観光公害(オーバーツーリズム)への配慮不足:来訪者数だけを追い、住民の生活環境が圧迫される。短期の数字は良くても、地域の持続性を損ないます。
避け方:来訪数だけでなく、住民満足度・苦情件数・混雑度を並列で指標化し、許容範囲を超えたら施策を調整します。 - 外部人材偏重:地域おこし協力隊や外部コンサルに依存しきり、地域内の意思決定の輪が育たない。担当者が抜けると活動が止まります。
避け方:地域内の意思決定メンバーを早期に巻き込み、外部人材の役割を段階的に地域人材へ引き継ぐ計画を立てます。 - 単発の打ち上げ花火:話題性のあるイベントや動画を一度だけ打って、継続運用の体制を作らない。検索流入もファンも積み上がりません。
避け方:中長期計画と継続運用予算を最初から組み、施策を1回限りではなくシリーズや年間サイクルで設計します。 - 分類設計の不在:コンテンツのカテゴリや導線設計がないまま量産し、ユーザーが次に取る行動が分かりにくくなる。検索評価やコンバージョンの検証もしづらくなります。
避け方:コンテンツ設計の段階でカテゴリ・内部リンク・CTA・KPIを定義し、量産前に分類体系を固めます。
いずれも「誰のために、何を残すのか」が曖昧になったときに起きる失敗です。設計段階で住民・行政・事業者の視点を入れ、意思決定・運用・検証の役割を明確にすることが、予防策になります。
成果につながる地域創生マーケティングの3つの条件
1. ターゲットと提供価値を絞り込む
地域には魅力が多すぎるため、訴求がぼやけがちです。「誰に、何を、どう届けるか」を一文で書ける状態にすると、施策の選択も成果検証もしやすくなります。
2. 継続運用に耐える設計にする
中長期の運用を前提に、コンテンツ・SNS・サイネージ・関係人口施策を組み合わせます。運用体制と予算配分を最初から設計することで、人事異動や担当変更にも強い活動になります。
3. 行政・地域企業・住民を巻き込み、合意形成を進める
地域創生マーケティングは、外部の代理店だけでは完結しません。地域の中で意思決定の輪をつくり、住民や事業者の言葉が反映される仕組みを持つことが、長期的な推進力になります。
まとめ
地域創生マーケティングは、商品を売るためのマーケティングを超えて、地域資源を選び直し、届ける相手と接点を定め、来訪・購買・参加・移住相談などの行動につなげる活動です。人口減少という大きな潮流のなかで、それぞれの地域が個性を活かしながら、外部とつながり、地域内の協働を強めていく——そのためのターゲット設計、編集、接点づくり、KPI運用、合意形成までを束ねる枠組みが、地域創生マーケティングです。
このテーマは、拙著『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)でも掘り下げています。地域単位の課題整理から、コンテンツ・SNS・サイネージを束ねた接点設計、KPI運用、合意形成までを、自治体・地域企業向けに事例とともにまとめた一冊です。
地域マーケティングの全体像(体制設計・予算配分・KPI設計)を俯瞰したい方は、ピラー記事地域マーケティングとは|地方企業・自治体が押さえる全体設計もあわせてご覧ください。
デジタルプロモーションでは、地域の課題整理から、記事・SNS・デジタルサイネージを使った接点設計、運用改善、地域企業・自治体への伴走支援までを行っています。地域の魅力をどう伝え、来訪・購買・関係人口づくりにつなげるかを整理したい方は、地方創生支援サービスのご案内をあわせてご覧ください。