地域ブランディングの解説記事は、驚くほど同じ順番で書かれています。
地域資源を洗い出す。強みを言語化する。ターゲットを決める。コンセプトをつくる。発信する。測る。
この順番自体は間違っていません。問題は、実務で詰まるのがこの順番の途中ではなく、資源とターゲットが噛み合わなかったときだという点です。
洗い出した資源に対して、狙いたいターゲットが大きすぎる。逆に、届けたい相手に対して、手元の資源が弱い。この状態は珍しくないどころか、たいていの地域で起きます。そしてそのときにどちらを動かすのかを書いた記事が、見当たりません。
この記事では、噛み合わないときの打ち手を4つに整理します。地域マーケティングの全体設計は地域マーケティングとは|地方企業・自治体が押さえる全体設計で扱っているので、本記事は資源軸とターゲット軸の噛み合わせだけを書きます。
結論:資源とターゲットは、一方通行では決まらない
先に3つ書きます。
- 解説記事は「資源 → ターゲット」の一方通行で書かれているが、顧客起点のブランド設計は逆順に近い。 見込み客の選定が、独自性の発見より前に置かれています
- 順番が逆だと、ペルソナの粒度が上がらない。 資源から出した独自性に合わせてターゲットを後付けすると、「観光に関心のある30〜40代」あたりで止まります
- 噛み合わないときに動かせるのは4つ。 ターゲットを変える/ターゲットを増やす/資源を束ね直す/資源を足す
なぜ「資源 → ターゲット」の順で書かれるのか
まず、いま流通している順番を確認します。
マイビジョンの行に注目してください。「地域資源が足りない」を課題として名指ししているのに、足りなかったらどうするのかは書かれていません。 今回確認した5本の範囲では、ここが空白でした(総論記事なので、書いていないこと自体が欠陥というわけではありません。本記事はそこに補助線を引きます)。
なぜ資源が先に来るのか。理由は想像がつきます。地域ブランディングの相談は「うちには何があるだろうか」から始まることが多く、話の入り口が資源だからです。会議の場も、まず地域の宝を出し合うところから始まります。
入り口としては自然です。ただし入り口と設計の順番は別物です。
顧客起点のブランド設計は、逆の順番になっている
筆者は一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会のアドバンスコースを修了し、認定トレーナーとして講座を担当してきました。同協会が体系化しているブランド構築のステップは、戦略(何を・誰に)と戦術(どのように)で折り返す構造になっています。
戦略側の並びは、おおよそ次の順です。
- 環境分析による市場機会の発見(3C)
- 市場細分化(セグメンテーション)
- 見込み客の選定(ペルソナ)
- 独自性の発見
- ブランド・アイデンティティ(旗印を一言に)
③見込み客の選定が、④独自性の発見より前にあります。 誰に向けるかを決めてから、その相手にとっての独自性は何かを探す、という順番です。
この順番を支えているのは、ブランドを相手の頭の中に形づくられる識別・想起・評価のまとまりとして捉える見方です。企業が「思われたい」姿と、相手が「実際に思っている」姿を近づけていく営みだ、と言い換えてもいいです。いずれにせよ、相手の側が識別・想起できて初めて成立します。誰の頭の中に建てるのかが決まっていなければ、独自性は評価のしようがありません。
地域の場合、この「相手」は来訪者だけではありません。住民、地域の事業者、移住を検討している人、進出を考えている企業。複数の相手がいて、それぞれ別の頭の中があるというのが、企業ブランディングとの大きな違いです。
地域に置き換えると、こうなります。「この地域の独自性は何か」は、誰にとっての独自性かを決めない限り答えが出ない問いです。温泉が独自性かどうかは、相手が温泉巡りを趣味にしている層なのか、子ども連れの家族なのかで変わります。
順番が逆だと、何が起きるか
トレーナーとして受講者に繰り返し伝えていたことが2つあります。
ひとつは、ペルソナの粒度がすべてを決めるということです。 ここがズレると、独自性もブランド・アイデンティティも、その先の具体化も刺激設計も目標設定も、全部ズレます。最上流の解像度が下流の精度を決めます。
もうひとつは、整合性こそが本質だということです。 ①から最後まで一本の筋で繋がっていること。どこかで切れたら、ブランドは崩れます。
この2つを地域ブランディングに当てはめると、「資源 → ターゲット」の順で進めたときに何が起きるかが見えてきます。
- 資源から独自性らしきものを先に決める(例:豊かな自然、歴史ある町並み)
- その独自性に合いそうな相手を、あとから当てにいく
- 結果、ペルソナが「自然が好きな30〜40代」「歴史に関心のある層」あたりで止まる
- 粒度が粗いので、そのあとのコンセプトも施策も一般論になる
- 発信しても反応が薄く、「うちには決め手になる資源がない」という結論に落ち着く
最後の一行が、いちばんもったいないところです。資源が足りないのではなく、誰に向けるかを決めないまま資源を評価したから、決め手に見えなかったという順序の問題であることが少なくありません。
資源から始めるのが正しい場面もある
ここまで「ターゲットが先」と書いてきました。ただし、これがすべてのブランド論に共通する手順というわけではありません。ここは正直に書いておきます。
顧客起点の設計(STPや前節のステップ)は、誰に向けるかを決めてから独自性を探します。一方、経営学のリソース・ベースト・ビューは、模倣されにくい固有の資源や能力を競争優位の起点に置きます。ブランド論の側でも、ブランドを顧客の知覚構造として捉える立場や、組織の歴史・人・シンボルからブランドの要素を設計する立場があり、「必ずターゲットが先」とは言えません。
そして地域には、そもそも動かせない資源が先にあるという事情があります。歴史ある町並み、地形、気候、何十年と続いてきた産業集積、文化。これらは「誰に向けるか」を決めたからといって作り直せるものではありません。資源から始めること自体は、地域では自然です。
分かれ目は、そこで止めるかどうかです。
- ✕ 資源を洗い出す → そこから「独自性」を決める → 旗印にする → 発信する
- ○ 資源を洗い出す → 誰にとっての価値として置くかを決める → 相手側の反応で確かめる → 旗印を固める
前者が危ないのは、資源から出てきた「独自性らしきもの」を、誰にも当てないまま旗印にしてしまう点です。豊かな自然も、歴史ある町並みも、それ自体は資源の記述であって独自性ではありません。独自性は、特定の相手が他と比べたときに初めて成立するものだからです。
判定はひとつで足ります。その独自性を「誰にとっての」を付けて一言で言えるか。 言えないなら、まだ資源の記述にとどまっています。資源起点で始めても構いませんが、その一言が言えるところまでは往復してください。
噛み合わないときの4つの打ち手
では、ターゲットを先に置いたうえで資源と突き合わせ、それでも噛み合わなかったらどうするか。動かせる先はいくつもありますが(ポジショニング、提供の形、価格帯、届ける経路、受け入れ体制、あるいは非注力にする判断)、地域で最初に検討する代表的なものを4つ挙げます。
打ち手1:ターゲットを変える
資源は動かさず、届ける相手を選び直します。多くの場合いちばん先に検討できる打ち手です。ただし常に軽いとは限りません。既存の客層を持つ事業者がいる、既存の販路や媒体が固まっている、といった場合は、見せ方や商品の組み方を変えるほうが軽くなることもあります。
同じ資源でも、相手を変えると独自性の評価が変わります。「何もない」と言われる静けさは、賑わいを求める層には弱みですが、混雑を避けたい層には強みになります。
判断の材料は、その相手が実際に来られるか(距離・交通)/その相手に届く経路があるか(媒体・接点)/その相手の数が事業として成立するかの3つです。
打ち手2:ターゲットを分ける(複数ペルソナの併走)
地域では、単一ターゲットへの最適化が成立しにくい面があります。資源が複数あり、季節でも変わり、受け入れる事業者も複数いるからです。
拙著『マーケティングで挑む地域創生』第二章では、ペルソナを1つに絞らず、デモグラフィック(年齢・家族構成・居住地など)、サイコグラフィック(趣味・価値観)、ビヘイビアル(情報収集の方法・移動手段・購買行動)の3層で肉付けしたうえで、複数を併走させる設計を書きました。
当社が観光DXを支援した西伊豆町では、地域特性(手つかずの自然と、東伊豆と比べたときの静けさ)から逆算して2つのペルソナを置いています。旅慣れた年配のご夫婦と、マリンスポーツを好む若い女性グループです。同じ地域に対して、響くコンテンツを別々に組み立てました(西伊豆町の観光課題解決のために観光DXを推進)。
注意点が2つあります。 ひとつは、分けるほど予算も想起も分散するので、優先順位と配分を決めてから分けること。もうひとつは、ペルソナ間でコンテンツが衝突しないかを確認することです。一方に「静けさ」を売りながら、もう一方に「賑わい」を売ると、現地が割れます。
併走は「別々の相手に別々のことを言う」ことではなく、同じ地域像の別の面を見せることです。境界は感覚ではなく、場所・季節・時間帯・価格帯・写真のトーン・検索の導線・現地での体験が衝突していないかで判定してください。
打ち手3:資源を束ね直す
単体では弱い資源を、カテゴリや面でまとめて成立させる打ち手です。実装は「共通のテーマで編集する」「周遊の商品にする」「広域のブランドとして束ねる」「共同で販促する組織をつくる」といった単位に分かれます。
静岡サウナ協議会は、個々の施設単体では全国の競合に対抗しにくいところを、「サウナの県」という束ね方で面をつくり、95団体・3県周遊まで広がりました。どう束ねたか、なぜ面で広がったかはサウナで地域活性化|静岡サウナ協議会95団体・3県周遊への発展史で扱っています。
この打ち手を採る場合、束ねること自体にコストがかかるという前提を最初に置いてください。同じ商圏の競合を同じ船に乗せる作業なので、調整の労力が発生します。
打ち手4:資源を価値に変える機能を足す
いま無いものを、後から差し込む打ち手です。いちばん重く、時間もかかります。ここで足すのは、自然や歴史のような素材そのものではなく、素材を価値に変える機能です。
大村湾では、地域商社・拠点・派遣型のコミュニティマネージャー・自前メディアという4つの機能を、年をまたいで順に足していきました(大村湾モデル詳解)。
「足す」といっても、観光施設を建てるという意味ではありません。人と場と発信の機能を足す、という意味です。ここを設備投資の話だと受け取ると、予算が理由で検討から外れてしまいます。
どれから試すか
4つには順番があります。軽いものから当たってください。
いきなり4から入る地域が少なくありません。「うちには何もないから、まず施設を」という発想です。ですが1と2を試さないまま4へ進むと、足した資源を誰に向けるのかが決まっていないまま設備だけが残ります。
打ち手を選んだあとに、必ず起きること
軸を動かして噛み合わせたら終わり、ではありません。ここからが長い仕事になります。
整合性を保とうとすると、それを違反する現場が次々に出てきます。 チラシのトーンが違う、窓口の説明が違う、SNSの投稿だけ別人格、といったことが必ず起きます。それを見つけて修正し続けるのがブランドマネージャーの仕事で、一度決めて終わる仕事ではありません。
地域の場合、これは企業以上に難しくなります。接点を持つ主体が多く、指揮命令の関係にないからです。自治体、観光協会、事業者、住民。それぞれが自分の判断で発信します。
現実的な打ち手は、ルール化です。旗印を決めたら、それを全接点へ落とすためのガイドを用意します。使ってよい言葉、使わない言葉、写真のトーン、紹介の順番。「気をつけましょう」ではなく、見れば分かる形にしておくことが、複数主体では効きます。
複数の主体で「動かす軸」を決めるには
4つの打ち手のうちどれを採るかは、関係者の間で利害が割れます。
- 事業者は、いまの客層(=いまの資源に合った相手)を手放したくない
- 自治体は、施策の対象を絞ることに慎重になりやすい
- 新しく入ってきた人ほど、資源を足す方向を推したくなる
こうなったときは、「どの軸を動かすか」を先に1つ決めてください。 資源を動かすのか、ターゲットを動かすのか。両方を同時に動かすと、噛み合ったかどうかを誰も判定できなくなります。
議論の順番としては、①いまのターゲットを言語化する(粒度を上げる)→ ②その相手にとって手元の資源がどう見えるかを評価する → ③噛み合っていなければ、動かす軸を1つ選ぶ、が現実的です。②を飛ばして③から始めると、好みの言い合いになります。
何で測るか
ブランディングの成果は、施策のKPIとは時間軸が違います。当社が関わってきた地域の案件では、数年単位で見ないと動きが出ませんでした(どれくらいかかるかは、カテゴリ・予算・既存の認知度・媒体量・交通条件で変わります)。単年度の来訪者数だけで判定すると、ほぼ「効果が見えない」という結論になります。
ファン化をどう測るか、施策KPIとレイヤをどう分けるかはエリアファンマーケティングとはで、交付金や年度予算の制約下でKPIを通す手順は地域マーケのKPI設計詳解で扱っています。
ひとつだけ本記事から付け加えると、ブランドの中核指標は相手側の頭の中に置いてください。 認知の有無、想起される内容、指名での検索や来訪です。資源が何本あるかは、それ自体では成果になりません。
ただし、それだけでは足りません。地域では、その認知を支える供給側の指標——受け入れ事業者の数、商品の数、住民の支持、受け入れ品質——も併せて見ないと、認知が先行して現地が追いつかない状態になります。
まとめ・関連記事
- 解説記事は「資源 → ターゲット」の一方通行で書かれているが、ブランド構築の体系では見込み客の選定が独自性の発見より前にある。 誰にとっての独自性かを決めない限り、資源は評価できません
- 順番が逆だと、ペルソナの粒度が上がらず、以降が全部ズレる。 「うちには決め手がない」の多くは、資源不足ではなく順序の問題です
- 噛み合わないときは4つ動かせる。 ターゲットを変える/増やす/資源を束ね直す/資源を足す。軽い順に試してください
- 地域マーケティングとは|地方企業・自治体が押さえる全体設計:上位の全体設計(4軸フレーム)
- エリアファンマーケティングとは|地域メディアとリアル接点でエリアの関心層をファン化する中位レイヤ設計:ブランディングの下に来る実装レイヤ
- サウナで地域活性化|静岡サウナ協議会95団体・3県周遊への発展史:資源を束ね直した実装
- 大村湾モデル詳解|地域商社×拠点×派遣型マネージャー×自前メディアで地域を回す実装:資源を足した実装
- 西伊豆町の観光課題解決のために観光DXを推進:複数ペルソナ併走の実例
- 地域マーケのKPI設計詳解|「測りにくいが意味のある指標」を制度に通す手順:制度に通すKPIの手順
地域ブランディングの設計でご相談があれば、お問い合わせからご連絡ください。
よくある質問(FAQ)
Q1: 資源の洗い出しを先にやってはいけないのですか? やって構いません。入り口としては自然です。ただし、洗い出した資源を評価するのは、ターゲットを決めたあとにしてください。誰にとっての独自性かが決まっていない段階で「これは弱い」と判断すると、後から効く資源を捨てることになります。
Q2: ペルソナはどこまで細かく決めればいいですか? 判断に使える粒度までです。「自然が好きな30〜40代」では、どの媒体に何を出すかが決まりません。デモグラフィック・サイコグラフィック・ビヘイビアルの3層で、情報収集の方法や移動手段まで書けていれば、施策に落とせます。
Q3: 複数ペルソナを併走させると、メッセージがぼやけませんか? 同じ地域像の別の面を見せる形なら、ぼやけません。ぼやけるのは、ペルソナごとに矛盾する地域像を出したときです。設計の段階で、コンテンツが衝突していないかを必ず確認してください。
Q4: 「資源を束ね直す」と「資源を足す」は、どちらが現実的ですか? 束ね直すほうが軽い分、先に検討する価値があります。ただし束ねる作業は、同じ商圏の競合を同じ船に乗せることなので、調整のコストが発生します。無料ではない、という前提で計画してください。
Q5: 住民や事業者の合意が取れず、軸を決められません。 先に「どの軸を動かすか」を1つ決めることをおすすめします。資源とターゲットを同時に動かすと、噛み合ったかどうかを判定できなくなり、議論が好みの言い合いになります。まずは現在のターゲットを言語化して粒度を上げるところから始めてください。
Q6: 効果はどれくらいで出ますか? 一律の期間はありません。カテゴリ、予算、既存の認知度、媒体量、交通条件で変わります。ただし単年度の来訪者数だけで判定すると、ほぼ「効果が見えない」という結論になります。時間軸の異なる指標を分けて置いてください。
参考文献
- 後藤晃『マーケティングで挑む地域創生』(2025年・AmazonPOD)第二章 https://amzn.to/4dLMFGs
- 一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 https://www.brand-mgr.org/
- ジチタイワークスWEB「地域ブランディングの進め方とは?成功事例から読み解く自治体の実践ポイント」 https://jichitai.works/articles/3368
- 大伸社コミュニケーションデザイン「自治体が目指す地域ブランディングとは」 https://www.daishinsha-cd.jp/blog/p_branding/
- ブランドストーリー研究所「地域ブランディングとは?」 https://brandstory.co.jp/blog_place-branding/
- 株式会社マイビジョン「地域ブランディングで成功するには?」 https://myvisi0n.co.jp/blog/1583
最終更新日:2026-09-04/初回公開 著者:後藤晃(株式会社デジタルプロモーション 代表取締役社長)。一般財団法人ブランド・マネージャー認定協会 アドバンスコース修了・認定トレーナー。地域ブランディングの設計・実装に、静岡サウナ協議会理事および大村湾の実装支援を通じて当事者として関与。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)。