マンションのデジタルサイネージとは、エントランスやエレベーターホールなどの共用部に画面を置き、管理組合からのお知らせ、地域の情報、場合によっては広告を流す仕組みです。紙の掲示板をデジタルに置き換える使い方から、広告で収入を得る使い方まで幅があり、どこまで行うかで管理組合が決めること(手続きや収入の扱い)が変わります。
この記事は、管理会社やデベロッパーの経営者が、導入案を理事会に出すときに、何を決めておけばよいかを整理したものです。対象は、管理組合のある分譲マンションです。標準管理規約の条文と、2026年4月に施行された決議の要件は国土交通省の原文で、収入の税は国税庁の質疑応答の原文で確かめています。
1. 結論:理事会に諮る前に、「何を流すか」「どの決議が要るか」「だれが続けるか」を決めておく
導入の相談を受けた管理会社やデベロッパーが、理事会に出す前に固めておく点は、次の3つです。
- 何を流すか:管理組合のお知らせだけか、地域の情報や広告も流すか。広告を流す場合は、共用部の第三者使用にあたるかの整理と、広告収入の税務上の確認が加わります(第3章・第5章)。
- どの決議が要るか:国土交通省の標準管理規約では、共用部の一部を第三者に使わせるには総会の決議を経ると定めています。規約の変更が要るときは、特別決議の要件を確認します。2026年4月に改正区分所有法が施行され、出席者を基準とする形に変わりました(第3章)。
- だれが中身を更新し続けるか:画面が入っても、更新が止まって古い情報が残ると、掲示への信頼を損ねるおそれがあります。入れる前に、更新の担い手を決めておきます(第6章)。
ひとつ補足します。広告枠の売上が税の上でどう扱われるかは、公開されている先例を私たちは見つけられていません。この記事では断定せず、「税理士に確認する」と書きます(第5章)。
2. 入れ方の整理:標準設備として入れる型と、広告で収入を得る型
マンションのサイネージは、設備を誰が持ち費用を誰が負担するか(標準設備型など)と、広告収入があるかを分けて考えると、決めることの違いが見えます。標準設備として広告付きの画面を採用する場合もあり、2つは重なります。ここでは、典型的な2つの型で説明します。
管理会社の標準設備型は、管理会社が管理する物件に、お知らせの配信を目的として画面を入れる形です。たとえば株式会社ギガプライズは2026年8月5日、株式会社リヴビルディングが管理・運営する集合住宅で、集合住宅向けのインターネット接続サービスと一体で提供するデジタルサイネージが、同社物件の標準設備として採用されたと発表しています。発表では、同社のインターネット接続サービスの導入物件のうち22棟で運用し、管理会社からのお知らせ、点検情報、防災・防犯情報を配信しているとされています。この発表は集合住宅への導入例で、分譲か賃貸か、管理組合の決議を経たかは書かれていません。費用の持ち方も書かれていないので、このタイプでも、だれが払い、契約が終わるときに設備がどうなるかは、契約で確かめる必要があります。
広告で収入を得る型は、広告枠を売って、画面の費用や運用費をまかなう形です。この場合は、広告掲載の契約と、設置場所を事業者に使わせる契約を分けて確認し、共用部の第三者使用にあたるかを整理します。あわせて、広告の掲載基準と、広告収入の税務上の確認が加わります。広告枠の売り方と収支の考え方は、デジタルサイネージで広告収入を得るにはで整理しています。
「標準設備型なら総会は軽く済む」と読みたくなりますが、そう言い切れません。必要な決議の種類は、入れ方の名前ではなく、設置の工事の中身と、管理規約の書き方で決まります(第3章)。
3. 総会で決めること:共用部の第三者使用と、決議の種類
標準管理規約16条2項:第三者に使わせるには総会の決議
国土交通省が示すマンション標準管理規約(単棟型、令和7年改正)の第16条2項は、次のように定めています。
前項に掲げるもののほか、管理組合は、総会の決議を経て、敷地及び共用部分等(駐車場及び専用使用部分を除く。)の一部について、第三者に使用させることができる。
同じ条のコメントには、2つの記載があります。ひとつは、有償か無償か、有償の場合の使用料の額などを、使用条件で明らかにすること。もうひとつは、「第2項の対象となるのは、広告塔、看板等である」という記載です。
広告を流す画面を共用部に置き、事業者に設置場所を使わせる形は、この条の対象になりうると読めます(当社の読みです)。広告主が買うのは放映枠で、場所を使うのは設置事業者という整理もあるため、契約ごとに分けて確認します。ただし、標準管理規約は国土交通省が示すひな形です。実際に効力を持つのは、各マンションの管理規約なので、まず当該マンションの規約に同じ定めがあるかを見ます。
反対の読み方もあります。管理組合が自ら画面を買って置き、組合のお知らせだけに使うなら、第三者に使わせる形ではありません。その場合は、この条の問題ではなくなりますが、設置工事の中身に加えて、収支予算や事業計画への計上、すでに総会で承認された範囲かどうかを確認します(標準管理規約第48条は、収支予算と事業計画を総会の決議事項としています)。
決議の種類:普通決議か、特別決議か
標準管理規約の第47条は、総会の議事を原則として「出席組合員の議決権の過半数」で決める(普通決議)としています。令和7年の区分所有法改正も、普通決議の基準を、法律や規約に別段の定めがない限り、出席した区分所有者とその議決権の各過半数としました(第39条)。書面や代理人による議決権行使は、出席に算入されます。3項に、より重い要件の事項が並びます。
- 規約の制定、変更、廃止
- 敷地及び共用部分等の変更(形状又は効用の著しい変更を伴わないものなどを除く)
これらは、組合員総数の過半数であって議決権総数の過半数を有する組合員の出席を要し、「出席組合員及びその議決権の各4分の3以上」で決めます(特別決議)。特別決議の事項でも、3分の2など別の割合を定めたものがあります。
第16条2項は、決議の種類を指定していません。また、第47条3項の特別決議の列挙にも入っていません。標準管理規約のとおりの規約なら、第三者使用は普通決議で足りると読めます(当社の読みで、条文に明記はありません)。ただし、次の2つの場合は特別決議に変わりえます。
- 規約に第三者使用の定めがなく、規約の変更が要る場合:規約の変更は特別決議です。
- 設置工事が共用部分の変更にあたる場合:区分所有法は、共用部分の変更を特別多数決議が原則としつつ、形状又は効用の著しい変更を伴わないものは、普通決議(過半数)で足りるとしています(標準管理規約コメント)。工事によって共用部分の形状や効用がどの程度変わるかで、扱いが分かれます。壁への固定や配線工事があるだけで、特別決議になるとは限りません。標準管理規約のコメントも、宅配ボックスを壁や床に固定する場合のように、共用部分の加工の程度が小さい工事は、普通決議で実施可能と考えられるとしています。個別の判断になるため、管理会社の技術担当や専門家の意見を添えて理事会に出します。
2026年4月1日以降の、特別決議の要件
2026年4月1日に、改正区分所有法が施行されました。国土交通省のパンフレットは、管理規約を改正する総会について、招集手続きを始める時期で手続きが変わると説明しています。
決議要件の分母が「全員」から「出席者」に変わりました。パンフレットの例では、母数が10で賛成5なら否決だったところが、母数(出席者)が6で賛成5なら可決となります。この例は、各人が同じ議決権を持つ前提です。実際には、人数と議決権の双方で割合を見ます。ここでいう出席には、書面や代理人による議決権行使も含みます(標準管理規約第47条7項、コメント②)。ただし、定足数として、区分所有者総数と議決権総数のそれぞれ過半数の出席が必要です。
あわせて、パンフレットは、現行規約の「総会の定足数」「決議要件」を直さないままだと、改正区分所有法に抵触して無効になると注意しています。第三者使用のために規約を変更する場面では、この点も合わせて点検します。
4. 理事会に導入案を出す前に、管理会社が用意するもの
ここからは当社の考え方で、法令や標準管理規約に書かれた決まりではありません。理事会に出す判断材料が足りないと、検討が進みにくくなります。管理会社の側で、次の6点をそろえておくことを勧めます。
- 目的:お知らせの配信が主なのか、広告収入も狙うのか。目的で、必要な手続きが変わります。
- 設置場所と工事:どの共用部に、何台、どのように付けるか。壁掛けか、床置きか。配線の経路はどうか。
- 費用と収入の帰属:初期費用と月々の費用をだれが払うか。広告収入が出るなら、どこに入るか。標準管理規約のコメントも、有償・無償と使用料を使用条件で明らかにするよう求めています。
- 広告の掲載基準:どの業種、どの表現を載せないか。住民に不安を与える広告を避ける線引きです。
- 更新の担い手:中身を作り、入れ替えるのはだれか。管理会社が受けるのか、事業者に任せるのか(第6章)。
- やめるときの取り決め:契約期間、途中の解約、撤去の費用、画面と機器はどちらのものか。
費用の考え方はデジタルサイネージの費用はいくらかかるかで、5年で比べる見方まで整理しています。
5. 広告収入の扱い:税の確認先と、わかっていないこと
広告収入が出る場合、管理組合の税の扱いを確認する必要があります。国税庁が公開している質疑応答のうち、最も近い例は、携帯電話基地局の設置料です。
国税庁の質疑応答(令和7年8月1日現在の法令等に基づく)は、マンション管理組合が、マンションの屋上に携帯電話の基地局を置かせて設置料を受け取る場合について、次のように答えています。
収益事業たる不動産貸付業に該当します。
理由として、法人税は人格のない社団等や公益法人等であっても、収益事業から生じた所得には課されること、そして賃貸借契約に基づいて建物の一部を他の者に使用させ、その対価を得る行為が不動産貸付業にあたることを挙げています。消費税についても、基準期間(前々事業年度)の課税売上高が1,000万円以下の事業者は、原則として納税義務が免除されるとしています。ただし、特定期間の課税売上高が1,000万円を超えた場合や、適格請求書発行事業者(インボイス)の登録をしている場合などは、免除されません(国税庁タックスアンサーNo.6501)。
ここで読み違えないでほしい点が3つあります。
- これは基地局の設置料の例です。広告枠の売上についての回答ではありません。
- この回答は、管理組合が法人税法上、人格のない社団等または公益法人等にあたることを前提にしています。
- 国税庁自身が、「照会に係る事実関係を前提とした一般的な回答」であり、具体的な取引に当てはめるときは、異なる課税関係になることがあると注記しています。
広告に関わるお金は、何の対価を、だれが受け取るのかで分けて考えます。広告主に広告枠を販売するのが事業者なのか管理組合なのか、管理組合が受け取るのは設置場所の使用料なのか広告枠の売上なのかを、契約で名目と算定方法まで確認してください。管理組合が受け取る設置場所の使用料と、自ら販売した広告枠の売上は、分けて整理します。広告枠(放映時間)の売上そのものが、税の上でどの区分になるのかは、公開されている先例を当社は見つけられていません。この記事では断定しません。広告収入を得る計画がある場合は、契約を結ぶ前に、税務上の扱いを管理組合の顧問税理士や税務署に確認してください。
6. 費用と運用:入れたあとに止まらない体制
マンションのサイネージで、手続きの次に効いてくるのが、更新を続ける体制です。期限切れの情報が残ると、掲示内容への信頼を損ねるおそれがあります。更新担当者、確認頻度、必要な予算は、導入前に決めておきます。
運用の負担を、管理会社が受けるのか、事業者に出すのか、組合の理事に任せるのかは、入れる前に決めておきます。社内で回すか外に出すかの判断軸は、デジタルサイネージ運用は内製か外注かに整理しています。
もうひとつ、押さえておきたいのは、制度を整えても、更新が続くとは限らない点です。自治体・公共施設のデジタルサイネージ運用では、更新が続くかどうかを分ける要素として、効果が見えているか、収入があるかを挙げました。マンションでは条件が異なるため同じとは言えませんが、継続には、住民に必要な情報を届ける体制が要ると考えています。
7. 事例:某マンション施設の実証実験
当社が関わった事例を紹介します。ただし、これは広告収入の事例ではなく、居住者向けに情報を配信した実証実験です。総会決議や費用負担の先例として紹介するものでもありません。
株式会社DGコミュニケーションズ様は、某マンション施設の居住者を対象に、コミュニティ形成のプラットフォームを構築する実証実験プロジェクトを実施しました。当社は、地域SNS「タウンビジョン」とデジタルサイネージを組み合わせた、居住者向けの情報コンテンツの制作を担当しました。専属の記者が近隣の飲食店やスーパー、周辺スポットを取材し、施設内のイベントの告知と当日の取材を含めて、居住スペースのサイネージと居住者専用のタブレットで配信されました。
事例資料では、約106コンテンツ配信、対象居住者の3割がイベントに参加と記されています。事例の詳しい内容は、マンション居住者向けに、タウンビジョンとサイネージでコミュニティ形成を支援に載せています。
立ち上げのあと、中身の更新は施設側に引き継ぎました。実証実験のあとも続けるなら、更新担当者と委託の範囲を、あらかじめ決めておく必要があります。
8. まとめ・次の一歩
マンションのデジタルサイネージで、本記事の要点は次の3つです。
- 理事会に出す前に、「何を流すか」「どの決議が要るか」「だれが続けるか」を決めておく:広告を流すなら、第三者使用にあたる場合の総会の決議と、広告収入の税務上の確認が加わります(第1章・第3章)。
- 決議の種類は、規約の定めと工事の中身で変わる:標準管理規約のとおりなら第三者使用は普通決議と読めますが、規約の変更や、共用部分の著しい変更が絡むと特別決議になります。2026年4月以降に規約改正の総会の招集手続きを始める場合、特別決議は、出席した区分所有者とその議決権の各4分の3以上で決める形に変わりました(第3章)。
- 広告収入の税務上の扱いは、断定せず税理士に確認する:基地局の設置料は収益事業とされていますが、広告枠の売上は先例を確認できていません(第5章)。
サイネージ運用の全体像は店舗売上を伸ばすデジタルサイネージ運用|失敗しない7つの設計にまとめています。
店舗の集客をGoogleマップで考えるときのルールは、不動産会社を例にした不動産会社のMEO対策は「何をプロフィールにできるか」から|モデル住宅や物件は載せられない、Googleのルールで扱っています。
マンションの共用部での導入や、広告枠の扱いについては、サイネージ運用代行のご相談の中でお受けしています。
よくある質問(FAQ)
Q1: マンションにデジタルサイネージを入れるには、必ず総会の決議が要りますか? 一律には言えません。広告を流すなど、共用部の一部を第三者に使わせる場合は、標準管理規約では総会の決議を経るとしています(第3章)。組合のお知らせだけを流す場合は、設置工事の中身、予算・事業計画への計上、そのマンションの規約の定めで変わります。まず、当該マンションの管理規約を確認してください。
Q2: 普通決議と特別決議は、どちらになりますか? 標準管理規約の第16条2項は決議の種類を指定しておらず、第47条3項の特別決議の列挙にも入っていないので、標準管理規約のとおりなら普通決議と読めます。ただし、規約の変更が必要な場合や、設置工事が共用部分の著しい変更にあたる場合は、特別決議です(第3章)。
Q3: 2026年4月から、決議の要件は何が変わりましたか? 特別決議の要件が変わりました。2026年4月1日以降に規約改正の総会の招集手続きを始める場合、決議の分母が、区分所有者・議決権の全体から「総会に出席した区分所有者とその議決権」の各4分の3以上になり、定足数として、区分所有者総数と議決権総数の各過半数の出席が必要になっています(国土交通省パンフレット、第3章)。
Q4: 広告収入は、管理組合の収入になりますか? 税金はかかりますか? 管理組合に入るお金は、契約で決まります。広告主に枠を販売するのがだれか、管理組合が受け取るのは使用料なのか売上なのかを、契約で確認してください(標準管理規約のコメントは、有償・無償と使用料を使用条件で明らかにするよう求めています)。税については、基地局の設置料を収益事業の不動産貸付業とする国税庁の回答があります。広告枠の売上については、公開された先例を確認できていないので、税理士に確認してください(第5章)。
Q5: 管理組合の費用負担なしで、入れられますか? 事業者によって、費用の持ち方は異なります。管理会社の標準設備として回線サービスと一体で提供する例はありますが、費用の負担と、契約が終わるときの設備の扱いは、契約書で確かめる必要があります(第2章・第4章)。
Q6: 理事会に導入案を出すとき、管理会社は何から用意すればよいですか? 目的、設置場所と工事、費用と収入の帰属、広告の掲載基準、更新の担い手、やめるときの取り決めの6点です。特に、更新の担い手は、決まっていないと入れたあとに止まりやすい部分です(第4章・第6章)。
参考文献
- 国土交通省「マンション標準管理規約(単棟型)コメント含む」令和7年改正(第16条・第47条、取得日:2026-10-18)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001999013.pdf
- 国土交通省「マンション標準管理規約」令和7年改正パンフレット(2025年12月発行、取得日:2026-10-18)https://www.mlit.go.jp/jutakukentiku/house/content/001971486.pdf
- 国税庁 質疑応答事例「マンション管理組合が携帯電話基地局の設置場所を貸し付けた場合の収益事業判定」(令和7年8月1日現在の法令等に基づく、取得日:2026-10-18)https://www.nta.go.jp/law/shitsugi/hojin/21/11-2.htm
- 国税庁 タックスアンサーNo.6501「納税義務の免除」(取得日:2026-10-19)https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shohi/6501.htm
- 株式会社ギガプライズ「ギガプライズ、リヴビルディング管理・運営物件におけるデジタルサイネージの活用を本格支援」(PR TIMES、2026年8月5日付、取得日:2026-10-18)https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000143.000026629.html
- 株式会社DGコミュニケーションズ様の事例(当社事例資料)
※法令や標準管理規約は、改正されることがあります。実際に導入するときは、当該マンションの管理規約と最新の内容を確認し、法令と税の判断は専門家にご相談ください。
最終更新日:2026-10-18/初回公開予定 2026-10-22 著者:後藤晃(デジタルプロモーション株式会社 代表取締役社長)。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)、シェア出版『「ゼロイチ」の挑戦 Vol.2』第10章寄稿。駅前・街頭のデジタルサイネージ網「タウンビジョン」を全国展開し、サイネージ・SNS・地域メディアを組み合わせた運用代行を専門に手がける。