デジタルサイネージを設置した施設オーナーが次に考えるのは、「この画面で広告収入を得られないか」という問いです。商業施設や駅ビル、マンションの共用部、公共施設の待合スペースなど、人の目に触れる画面を持っているなら、それは広告媒体としての可能性を持っています。ただし、売れるかどうかは画面の有無では決まりません。収支を試算し、自分に合った売り方を選び、買い手が比較できる形で数字を出せるかどうかで決まります。
本記事は、機器選びや設置後の運用ではなく、画面を持つ側が広告収入を得る側に回るときに、何をどう決めるかを扱います。①月間の売上と利益をどう見積もるか、②売り方をどう選ぶか、③買い手が比べる数字をどう用意するか、の3点を順に説明します。
デジタルサイネージの広告収入(売上)は、「月額単価×販売可能枠数×販売率」で決まります。そこから、代理店手数料・電気通信費・配信システムの利用料・保守費・機器費といった費用を差し引いた残りが利益です。単価は1枠あたりの月額掲載料、販売可能枠数は実際に売り出す広告枠の数、販売率は実際に埋まった割合を指します。売上と利益を分けて考えることが、この後の試算と売り方選びの土台になります。
1. 結論:広告売上は「単価×枠数×販売率」、利益はそこから費用を引いて残る
広告収入を得られるかどうかを、設置場所の良し悪しだけで判断してしまう場面をよく見かけます。しかし人通りが多い場所でも、売り方を決めていなければ収入は生まれません。逆に人通りがそれほど多くなくても、テナントや地元事業者との関係が強ければ、直販だけで採算に乗る場合もあります。
広告売上と利益を決める要素は4つです。
- 単価:1枠・1掲載期間あたりの掲載料
- 販売可能枠数:1画面で「販売する」広告枠の数(1ループの中に何社分の広告スペースを設けるか。1社の広告を何回流すかという放映回数とは別の数字です)
- 販売率:用意した枠のうち、実際に埋まった割合
- 費用:代理店手数料、電気・通信費、配信システムの利用料、機器の保守費、コンテンツの差し替えや営業・計測・報告にかかる人件費など
たとえば、月額単価1万円・販売可能枠数10枠、月間の固定費用(保守費や配信システム利用料など)を4万円、変動費をゼロと仮定すると、販売率40%で損益分岐します(1万円×10枠×40%=4万円)。販売率がこれを上回れば利益が生まれ、下回れば赤字です。これは説明のための仮の数字で、当社の実際の料金ではありません。
この4項のうち、どこを動かせば利益が増えるかを、広告枠を売る前に見積もっておきます。単価を上げると販売率が下がりやすく、販売可能枠数を増やす(1ループを長くする、または1本あたりの掲出秒数を短くする)と、1枠あたりの接触機会が減りやすくなります。このトレードオフを踏まえたうえで、次の§2で売る権限の有無、§3で売上と利益の試算、§4で売り方を見ていきます。
2. 売る権限は誰にあるか
広告枠を売る前に確認すべきことは、そのサイネージの広告枠を売る権限が自分にあるかどうかです。設置場所の性質によって、この確認の重さが変わります。
- 自社所有(自社ビル・路面店・自社敷地内):もっとも裁量が広く、自分の判断で売り方を決められます。
- テナント契約(商業施設の共用部・駅ビルなど):貸主との契約に広告収入の扱いが定められているかを確認する必要があります。テナント側が独自に広告枠を売ってよいかは、賃貸借契約の記載次第です。
- 管理規約に基づく共用部(マンションの管理組合が管理する共用スペースなど):貸主とのテナント契約ではなく、管理規約や総会決議に基づいて使用条件が決まります。広告枠を売る場合は、管理規約の変更や総会の承認が必要になることがあります。
- 公共施設(庁舎・公民館・公共施設の待合スペースなど):設置場所を使う根拠(行政財産の使用許可など)、広告掲載基準(広告掲載要綱など)、事業者との契約という3つを、それぞれ確認する必要があります。必要な手続きは事業方式(直営か、指定管理か、公募プロポーザルかなど)によって異なり、複数の手続きが併用される場合もあります。この論点は自治法や条例が絡む法制度の話なので、詳しくは自治体・公共施設のデジタルサイネージ運用|更新が止まる分かれ目と、続く形をつくる調達設計で整理しています。公共施設で広告収入を検討する場合は、まずそちらをご確認ください。
なお、屋外に設置したサイネージは、屋外広告物条例の許可が必要になる場合があります。自社敷地内であっても、道路や公共の視界に入る屋外の設置は、看板と同様の許可対象になることがあります。一方、屋内に設置して屋外に向けて表示する形式には、自治体が独自の届出制度を設けている場合もあります。加えて、これまで自社の案内だけに使っていた画面を第三者向けの広告に切り替えると、自家用広告物としての扱いが変わり、許可や届出の要否が変わることもあります。屋外設置か、屋内からの屋外表示かを伝えたうえで、売る前に所轄部署へ確認してください。
3. 収支を試算する
売る権限があると分かったら、§1で挙げた4項を実際の数字に置き換えます。
単価は、近隣の広告媒体(駅広告・交通広告・他のデジタルサイネージ)の相場や、既存のテナント契約の条件を参考に決めます。相場が分からない場合は、まず低めの単価で1〜2社に試験的に販売し、反応を見てから調整する方法もあります。
相場を調べるときは、交通広告や近隣のデジタルサイネージが公開している媒体資料を集め、掲出秒数・1ループあたりのロール回数・契約期間をそろえたうえで比較すると、単価の見当がつけやすくなります。同じ条件で比べないと、価格差が場所の違いなのか掲出条件の違いなのか判断できません。
販売可能枠数は、1ループ全体の秒数のうち広告に充てる秒数と、1本あたりの掲出秒数から決まります。たとえば180秒のループのうち、施設案内に60秒、広告に120秒を割り当て、1本15秒の広告を1ループにつき1回流す設計なら、販売可能枠数は8枠です。この「枠数」は販売する広告の本数であり、1日に何回放映されるか(放映回数)とは別の数字です。12時間稼働で1ループが180秒なら、1日あたり240ループが回るので、各枠は1日240回放映される計算になります。1本あたりの掲出秒数を短くすれば枠数は増やせますが、1本あたりの接触時間は短くなります。
販売率は、直販か代理店経由かで変わります。直販の場合は自分の営業力に依存し、代理店やアドネットワーク経由の場合は先方の需要に依存します(売り方の違いは§4で説明します)。
費用には、代理店を通す場合の手数料、サイネージ機器の電気代・通信費、配信システムの利用料、機器の保守費に加えて、コンテンツの差し替え作業・営業活動・視聴計測・買い手への報告といった運用の手間が含まれます。自分で運用する場合は人件費として、外部に委託する場合は委託費として見積もります。既存の設置に広告枠を足すだけなら、増える費用は代理店手数料や運用の手間が中心です。一方、サイネージそのものを新規に設置して広告収入を得る計画なら、機器費や設置費まで含めた採算で見る必要があります。この2つは足し合わせず、別の試算として見てください。
§1の例と同じ前提で、販売率を60%まで伸ばせたとします。月間の広告売上は「1万円×10枠×60%=6万円」です。ここから§1と同じ固定費用(保守費や配信システム利用料など、月4万円。代理店手数料はこの例には含めていません)を差し引いた「6万円−4万円=2万円」が月間の利益です(いずれも説明のための仮の数字で、当社の実際の料金ではありません)。単価を上げる、販売可能枠数を増やす、販売率を上げる、費用を下げる。どの項を動かすかによって、必要な打ち手はまったく違います。販売率が伸び悩んでいるなら営業のやり方や売り方(§4)を見直す話であり、費用がかさんでいるなら、内製と外部委託のどちらが総費用で見て安いかを比べる話です(原因別の見直し方は§8で整理します)。
4. 売り方を決める
売上と利益の見立てができたら、売り方を決めます。広告枠を売る方法は「直販」「販売の一部委託」「アドネットワークの利用」の3つがあり、加えて「売らない」という選択も成立します。
4-1. 自分で売る(直販)
テナントや取引先、地元の商店会などに直接営業する方法です。代理店マージンがかからず、掲載内容も柔軟に決められる一方、営業の手間と時間がかかります。すでに関係のある相手がいるなら、もっとも着手しやすい方法です。
4-2. 営業を外に頼む(運用代行に一部委託)
サイネージの運用代行には、機器の設置やコンテンツの差し替えだけでなく、広告枠の受注や出稿する広告代理店の取りまとめ・管理まで引き受ける形態があります。当社でも、運用代行の中で広告枠の販売をお手伝いすることがあります(詳細は店舗売上を伸ばすデジタルサイネージ運用|失敗しない7つの設計を参照)。運用代行を頼む場合でも、広告枠の営業まで一緒に引き受けてもらえるとは限りません。委託の範囲は事業者ごとに異なるため、契約前に確認が必要です。
4-3. アドネットワークに乗せる
放映時間の一部を外部の広告ネットワーク(アドネットワーク)に提供し、プログラマティック配信(自動取引で広告枠を出し分ける仕組み)で広告を流す方法です。個別の営業活動が不要になる一方、広告審査の基準・出稿できる業種の制限・価格の決め方は、利用するサービスや契約によって異なります。契約前に、接続条件、手数料、収益分配の仕組み、最低保証の有無、売れ残った時間の扱いを確認してください。販売可能枠数が多く、個別営業に手が回らない場合に向いています。
4-4. 売らない
広告枠を販売する代わりに、自社の案内やPRだけに画面を使う選択も成立します。広告営業やコンテンツの差し替えに追加の手間をかけずに運用できます。どのような施設に「売らない」が向くかは、§8で具体的に説明します。
5. 媒体資料に載せるもの(買い手が比べる数字)
媒体資料には、まず次のような基本項目をそろえます。設置場所の写真、画面数、放映時間帯、1本あたりの掲出秒数と頻度、料金、入稿条件、掲載できない業種、機器停止時の扱いです。これらは観測できる事実として示し、担当者の印象とは分けて書きます。
テナントや近隣の店舗への直接営業では、この基本項目に加えて設置場所の人通りの実感を伝えるだけで話が進むこともあります。ただし、これは自社の営業経験の範囲での話であり、一般に当てはまるとは限りません。一方、代理店経由やアドネットワークに乗せる場合、買い手は駅広告・交通広告・他のサイネージ網など、他の媒体と比較して出稿を決めます。このとき、業界の標準に沿った数字を媒体資料に載せられると、比較の土俵に乗りやすくなります。
一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム(DSC)は、OOH(Out of Home=屋外・交通・店頭など家庭外で接触する広告媒体)の測定基準を、段階を分けて整備してきました。
つまり、広告を視認したと推定される人数を示す標準は2021年から存在し、2022年にグローバル基準の日本語版が示され、2026年に「どれだけ注意を向けられたか」という質の指標が加わりました。媒体資料に数字を載せるときは、放映実績(何回・何時間放映したか)と、推定接触数(何人が視認したと推定されるか)を分けたうえで、自社の枠がどの段階まで示せるかを確認すると、買い手にとって比較しやすい資料になります。
地元の店舗へ直接営業する場合は、この業界標準に厳密に沿う必要がない場面もあります。ただし代理店経由やアドネットワークに乗せる場合は、他の媒体と比較されるため、標準に沿った数字を用意しておいたほうが提案は通りやすくなります。
6. 提案の仕方
売り方(§4)と、載せる数字(§5)が決まったら、提案の組み立てに入ります。
テナント・地元事業者への直販では、設置場所の人通りや客層、過去の掲載実例を見せて提案します。値付けは近隣の相場や既存契約を参考にします。関係のある相手であれば、細かい指標を求められることは少なく、掲載期間や掲出時間帯の相談が中心になります。
代理店経由では、代理店が複数の媒体をまとめて広告主に提案するため、§5で触れた標準に沿ったフォーマットの資料を求められることが多くなります。取りまとめ・請求・出稿管理を代理店に任せられる分、直販より着地までの手間は減りますが、資料の準備には一定の手間がかかります。
7. 掲載後の報告
広告を掲載した後は、買い手に「どれだけ見られたか」を伝える必要があります。詳しい計測の設計(何を測るか、どう比較するか、AIカメラをどう使うか)はサイネージ効果測定の設計で扱っているので、計測の実装はそちらを参照してください。
本記事で触れるのは、買い手に出す報告の形だけです。報告には、放映実績(対象期間中に何回・何時間放映したか)と、推定接触数(§5の指標に沿って何人が視認したと推定されるか)を分けて記載します。推計方法や、重複してカウントしていないかといった前提も添えると、次回の更新提案や単価交渉の材料になります。報告の頻度と形式を事前に決めておくと、買い手との関係が継続しやすくなります。
8. 売れない枠の典型
ここまで売り方を整理しましたが、すべての施設がすぐに広告を売る側に回れるわけではありません。当媒体の別記事「OMO店舗施策の始め方|リテールメディアとジオターゲティングの使いどころ」でも、中堅チェーンや地元企業がすぐに「広告を売る側」に回れるわけではないという慎重な見立てを述べています。
うまく売れない、または売るべきでない状況は、原因によって取るべき対応が違います。
- 人手不足(直販営業に割ける人手がない):自分で営業する場合の人件費と、§4-2の運用代行に委託する場合の委託費を比べます。委託費が上乗せされる分、必ず利益が増えるとは限らないので、総費用で比較してください。
- 需要不足(通行量・来店客数が少ない、すでに地元の広告需要が他の媒体で埋まっている):営業を誰に頼むかを変えても需要そのものは増えません。販売条件(単価・掲載期間)や、声をかける買い手候補そのものを見直します。
- 権限未確認(テナント契約や管理規約に、広告収入の扱いが定められていない):営業活動を始める前に、§2に戻って契約や承認を先に整理します。
原因を切り分けたうえで、無理に自分で売ろうとするより、§4-4の「売らない」判断、あるいは§4-2で外部に任せる判断のほうが妥当な場合もあります。
9. まとめ・関連記事
デジタルサイネージで広告収入を得るための要点は次の3つです。
- 広告売上は「単価×枠数×販売率」、利益はそこから費用を引いて残る:4項のどこを動かすかを先に見極める(§1・§3)
- 売り方は「直販・販売の一部委託・アドネットワーク」の3つ、加えて「売らない」判断もある:自分に合ったものを選ぶ(§4)
- 代理店・アドネットワーク経由なら業界標準の数字を用意する:DSCが2021年から段階的に整備してきた指標に沿うと、他媒体との比較で提案が通りやすくなる(§5)
サイネージの運用設計そのものについては店舗売上を伸ばすデジタルサイネージ運用|失敗しない7つの設計、公共施設での広告収入と調達の論点は自治体・公共施設のデジタルサイネージ運用|更新が止まる分かれ目と、続く形をつくる調達設計、コンテンツ自体の設計はサイネージのコンテンツ設計、効果測定の設計はサイネージ効果測定の設計をあわせてご覧ください。
サイネージの運用代行についてのご相談は、サイネージ運用代行からお問い合わせください。運用代行のご相談の中で、広告枠の販売についてもご相談いただけます。
よくある質問(FAQ)
Q1: サイネージの広告枠は誰が買うのか? テナントや近隣の店舗など、設置場所の商圏に関心がある事業者が中心です。直販であれば地元の取引先や商店会、代理店経由やアドネットワークであれば、より広い範囲の広告主に届く可能性があります(§4)。
Q2: 直販でも業界標準の指標は必要ですか? 必須ではありません。直販では、媒体資料の基本項目(設置写真・画面数・放映時間帯など)に加えて人通りの実感を伝えるだけで話が進む場合もありますが、これは自社の営業経験の範囲での話です。他の媒体と比較検討される代理店経由やアドネットワーク経由の場合は、標準に沿った数字を用意しておくと提案が通りやすくなります(§5)。
Q3: 屋外広告物条例は必ず確認が必要ですか? 屋外設置か、屋内から屋外に向けた表示かによって適用が変わるため、断定はできません。屋外の設置は許可対象になる場合があり、屋内からの屋外表示に独自の届出制度を設けている自治体もあります。既存の画面を第三者向け広告に切り替える場合は許可・届出の要否が変わることもあるので、売る前に自治体の所轄部署へ確認してください(§2)。
Q4: 広告料の収入は税務上どう扱われますか? 貸主の性質(法人か、管理組合のような団体か)や契約形態によって整理が変わるため、本記事では断定しません。売る前に税理士に確認してください。
Q5: サイネージを設置したら必ず広告枠を売るべきですか? そうとは限りません。通行量が少ない、営業の人手がない、契約上広告収入の扱いが定まっていないといった場合は、売らない、または営業を外部に頼む選択のほうが妥当なことがあります(§8)。
Q6: 代理店に頼むことと、運用代行に頼むことの違いは何ですか? 代理店は広告主を集めて出稿を取りまとめる役割が中心です。運用代行は、機器の設置やコンテンツの差し替えといった日々の運用に加えて、広告枠の受注や出稿する代理店の取りまとめまで引き受ける場合があります。委託する範囲は事業者ごとに異なるため、契約前に確認が必要です(§4-2)。
参考文献
- 一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム「オーディエンスメジャメントガイドライン(第1版)を発行」(2021年3月1日、取得日:2026-09-21)https://digital-signage.jp/press-release/23951/
- 一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム「オーディエンスメジャメントガイドライン 第1版」PDF(取得日:2026-09-21)https://digital-signage.jp/wp-content/uploads/AudienceMeasurementGuideline1.0.pdf
- 一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム「OOHオーディエンス測定の新しいグローバルガイドライン」日本語版公開について(2022年10月、取得日:2026-09-21)https://digital-signage.jp/press-release/27178/
- 一般社団法人デジタルサイネージコンソーシアム「OOHアテンション計測ガイドライン Version 1.0」公開について(2026年8月18日、取得日:2026-09-21)https://digital-signage.jp/press-release/49037/
- デジタルプロモーション「タウンビジョン拠点一覧」(取得日:2026-09-21)https://digitalpromotion.co.jp/business/townvision/location/
最終更新日:2026-09-21/初回公開予定 2026-09-24 著者:後藤晃(デジタルプロモーション株式会社 代表取締役社長)。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)、シェア出版『「ゼロイチ」の挑戦 Vol.2』第10章寄稿。駅前・街頭のデジタルサイネージ網「タウンビジョン」を全国展開し、サイネージ・SNS・地域メディアを組み合わせた運用代行を専門に手がける。