「ChatGPTなどを全員に配ったが、使っているのは一部の人だけ」「だれに旗を振らせればいいのか」「研修をもう一度やるべきか」。社員30〜300人の地域企業の社長から、こうした相談を受けることがあります。
生成AIの社内定着とは、一部の人が使える状態から、会社の業務のやり方が変わる状態まで進めることです。 研修の前に決めるのは3つあります。だれに旗を振らせるか、その人にどれだけ時間を空けるか、活用をどう評価に載せるかです。推進担当には、いちばん詳しい人より、業務のやり方を変える判断ができる人(またはその人にすぐ届く人)を選ぶ形を勧めます。兼務なら時間を先に空け、評価は、使った量より業務がどう変わったかで見る形を提案します。
デジタルプロモーション株式会社(以下、当社)は、社内で生成AIを使った業務を進めています。当社で旗を振ったのは取締役で、研修のほかに社内の発表会を続け、2026年下期から、AIの活用を加点評価に入れました。本記事は、この運用で気づいたことを、社員30〜300人の会社の社長が決める3つに整理した提案です。効果を数字で測ったものではありません。
1. 先に決めるのは「だれに」「どれだけの時間を」「どう評価するか」の3つ
定着に必要なことは、次の3つに分けられます。
- だれに旗を振らせるか:推進担当を、だれにするか
- どれだけの時間を空けるか:兼務なら、本来の仕事のどこを減らして、その分の時間を渡すか
- どう評価するか:AIの活用を、人事評価に載せるか。載せるなら、何を見るか
研修を追加する前に、この3つの方針も確認してください。関連記事の地方企業と自治体のAI活用では、地域企業(社員30〜300人)の注意点を「推進担当を1人決めないと、配って終わりになる」と書き、推進担当の決め方は別の記事で扱うと予告しました。本記事で、その続きを説明します。
なお、社内向けか社外向けかの分け方、体制の作る人と通す人の分け方は、同記事に書いたので繰り返しません。
2. 配って終わりになる構造:使い道が分からない、聞く相手がいない、使っても評価されない
AIを配っても使われない会社には、次の3つのどれかが残っていることが多いと、当社は見ています。これは当社の見立てで、統計で確かめたものではありません。
- 使い道が分からない:自分の業務のどこに使えるのかが見えない。ツールの説明はあっても、自社の仕事での使い方が見えません
- 聞く相手がいない:詰まったときに、気軽に聞ける人がいない。聞けないまま、使うのをやめます
- 使っても評価されない:使っても使わなくても、評価が変わらない。使う時間は、自分の通常業務から削ることになります
研修は、1つ目の一部を埋めるのに向いています。自社の業務を扱う演習や、研修後の相談会は、使い道や相談相手を見つける機会にもなります。ただ、担当者の業務量や評価制度は、研修だけでは変わらず、別に決める必要があります。研修を重ねる前に3つの方針を確認したほうがよい、と考える理由はここにあります。
3. 推進担当の選び方:いちばん詳しい人より、業務のやり方を変えてよい立場の人
推進担当を決めるとき、AIにいちばん詳しい人を思い浮かべる社長は多いようです。当社は、詳しさより先に、次の2つを見ます。
- 社内の業務のどこが面倒かを知っている
- その業務のやり方を変える権限を持っているか、権限のある人にすぐ届く
推進担当と、業務の変更を決める人(決裁者)は、同じ人が担う形も、分ける形もあります。分ける場合は、担当が変更案をまとめ、決裁者が実施の可否を判断します。
AIの出力を使うには、たいてい業務の進め方を変える必要があります。要約の作成時間が短くなるだけでも効果はありますが、事前共有や会議中の説明の仕方まで見直せば、会議全体の負担を減らせる場合があります。詳しい人が変更の権限を持っていないと、使い方の提案が、変更の決裁を待つ間に止まります。この考え方は、外部のAI顧問を入れる場面でも同じで、AI顧問・AIコンサル・受託開発は何が違うのかに詳しく書きました。社内に担当がまったくいない場合に、外部をどう使うかも、そちらで扱っています。
当社で旗を振ったのは、取締役です。取締役は、業務を知っていて、部署をまたいでやり方を変える権限もある立場にあります。つまり当社は、推進担当と決裁者を取締役が兼ねた例です。旗振り役がこの立場だったことと、上の2つの条件の関係は、当社の見立てです。
社長がやる型と、その弱点
社長本人が旗を振る型は、中小企業では最も早く動く形のひとつです。変更の権限が最初から手元にあるためです。ただ、弱点が2つあります。
- 社長が抜けると止まる:出張や別件で社長が動けない間、推進が止まります
- 社長には質問しにくい:現場の「こんなことを聞いてよいのか」という細かい質問は、社長に上がりにくくなります
社長が旗を振る場合でも、日々の質問を受ける役は別に置いておくと、止まりにくくなります。これも当社の提案で、検証したものではありません。
詳しい若手に任せる場合
AIに詳しい若手を担当にする案もあります。使い方の提案は早く出ますが、業務を変える権限は持たないのが普通です。その場合は、変更を決める人(部門長や役員)と、担当をひとつの組にして決めておくと、提案が止まりにくくなります。担当ひとりに、使い方の普及と業務の変更の決裁を両方背負わせない、ということです。
4. 兼務の時間:先に空けて、何に使うかを決める
推進担当は、専任にせず兼務で始める会社が多いでしょう。兼務の落とし穴は、本来の仕事が優先され、推進の時間が最後に回ることです。時間が決まっていない推進は、忙しい週に消えます。
本記事では、兼務の時間の数字は示しません。当社が確かめた数字がなく、適切な時間は、会社の人数、AIを使う部署の数、担当の本来の業務量で変わるためです。示せるのは、時間の決め方の考え方です。以下は、当社の提案です。
- 時間を、本来の仕事の中から先に空ける:「空いた時間でやる」にしない。本来の仕事のどれを減らす、または誰かに渡すかまで決めます
- 空けた時間の使い道を決める:次の3つが候補です
- 社員の質問を受ける
- 社内の使い方を集めて、ほかの人に見せる
- AIで置き換える業務、やめる業務の案をまとめる(実施の可否は決裁者が判断する)
- 担当者の負担や時間配分を見直す日を決める:負担が重すぎないか、時間が足りているかを、定期的に社長が聞きます
空けた時間は、費用でもあります。社内の工数をどう見積もるかは、AI導入の内製・外注費用を比較するに書きました。
5. 研修のほかに効いたこと:社内の発表会
当社には、研修のほかに効いたと感じていることがあります。社内で定期的に開いている発表会です。
やり方は単純です。月曜の朝礼のあとに30分とり、学んだことを社員に発表してもらっています。研修の中身(月3回の研修で扱っていること)は、AI内製化の4か月に書いたので、ここでは繰り返しません。
なぜ効いたと考えるか
役立った理由を、当社は次のように考えています。これは当社の見立てで、発表会の効果を数字で測ったものではありません。
- 発表する側が、学んだことを自分の言葉に直す:人に話すには、何ができて、何がうまくいかなかったかを整理する必要があります
- 聞く側が、同じ会社の同僚の使い方として見られる:研修で見る一般的な例より、自社の業務での使い方のほうが、自分の仕事に引き寄せやすくなります
- 聞く相手が増える:詰まったときに、旗振り役ひとりに聞く形から、発表した人にも聞ける形に変わります
第2章の3つのうち、「使い道が分からない」と「聞く相手がいない」の両方に働きかける仕組みだと見ています。
続けるときの注意
一方、発表の負担や、発表者の固定化には注意が必要です。発表が負担になる人もいますし、発表する人が固定されると、聞く側は見ているだけになります。この点が定着にどれだけ影響したかは、当社では分けて測れていません。
6. 定着と効果を分けて確かめる:継続して使われているか、業務がどう変わったか
定着を、利用者数や利用回数で測る会社は多くあります。数えやすいためです。ただ、使った回数が多くても、業務が変わっていないことがあります。逆に、業務が一度変わっても、続いているとは限りません。そこで、次の2つを分けて見る形を提案します。
- 継続して使われているか:対象の業務で、AIが繰り返し使われているか
- 業務に効果が出ているか:時間や品質が改善したか
効果を見る項目の例は、次のとおりです。
- やめた業務:AIに置き換えて、やらなくなった作業
- 短くなった業務:同じ仕事が、以前より短い時間で終わるようになった作業(出力の確認や修正の時間を含めて見る)
- 質が変わった業務:誤りや手戻りが減った作業(確認を省略して減ったのではないか、にも注意する)
- 増えた業務:AIの出力の確認など、新しく生まれた作業(これも変化として数える)
数字の取りやすい業務もあれば、取りにくい業務もあります。取りにくいものは、無理に数字にせず、「何が、どう変わったか」を文章で残すほうが、あとから使えます。この考え方は、次の章の評価とつながります。
7. 評価に載せるか:使った量ではなく、業務がどう変わったかを本人が書く
AIの活用を人事評価に載せるかは、正解のある論点ではありません。当社は載せています。
当社の運用は、次のとおりです。2026年下期から、AIの活用を、賞与の評価の加点として入れています。業務の生産性が上がった、作業の時間が短くなった、といったことを、本人が論理的に書く形です。
この評価で人の動きがどう変わったかは、本記事では書きません。確かめた数字がないためです。
ここからは当社の提案です。評価に載せるなら、使った量ではなく、業務がどう変わったかを見る形が合うと考えています。
- 量を評価すると、量を稼ぐ動きが出やすい:使った回数や時間を見ると、回数を増やすための使い方が出る心配があります。これは当社の推測です
- 文章で記録すれば、数字にしにくい変化も共有できる:ただし、文章の巧拙や、業務ごとのAIを使う機会の差が評価に響くことがあります。導入前後の作業、確認・修正の負担、変化の根拠を共通の項目として確認する方法が考えられます
- 書くことで、自分の業務を見直せる:論理的に書くには、変化の前と後、その根拠を整理する必要があります
加点方式でも、賞与や昇格にどう反映されるか、AIを使う機会が少ない職種にどのような影響があるかは、確認しておく必要があります。「減点しない」ことと「不利益がない」ことは、同じではないためです。
載せない判断もある
評価に載せない判断も成り立ちます。人数が少なく、社長が全員の仕事を見られる規模なら、評価の仕組みを変えるより、発表会のような場を先に作るほうが軽く始められます。評価の制度は、一度変えると戻しにくいためです。載せるなら、評価の基準を先に文章にして、社員に伝えてください。賞与や昇格への反映方法を変える場合は、既存の就業規則や評価規程との整合、必要な手続きを、社労士に確認することを勧めます。
8. ルールとの関係:最初から完全なルールを配らない
定着の話をすると、ルールを先に整えるべきか、という質問が出ます。当社は、最低限の取り決めを先に置き、運用中に分かったことを加えていく形を勧めています。利用を広げる前に、使えるサービス、入力できる情報、出力の確認方法、相談先を決めてください。何をAIにさせてよいか、送信・公開・削除の線引きをどう決めるかは、生成AIの社内ルールは、何を入れるかより先に、何をさせるかを決めるに書きました。
定着の観点で言うと、完成した長いルールを最初に配ると、読まれないまま、使うのを控える空気が先に出ることがあります。これは当社の見立てです。軽い業務は担当を張らずに全員へ開放する、という考え方はAI導入の着手順に書いています。
9. よくある質問(FAQ)
Q1: 推進担当にできる人が、社内にいません。 専任でなくても構いません。業務を知っていて、やり方を変える権限もある人が見当たらない場合は、社長や部門長が業務変更の判断を担い、外部の顧問に助言や進行の支援を求める形があります。外部の顧問を使う場合も、業務変更を判断する人は社内に必要です。条件はAI顧問・AIコンサル・受託開発は何が違うのかに整理しました。
Q2: AIに詳しい若手に任せたいのですが、問題はありますか? 詳しい人を担当にすること自体は問題ありません。ただ、業務を変える権限が無いと、提案が止まります。変更を決める人とセットにしてください(第3章)。
Q3: AIを使わない社員は、どう扱えばよいですか? 当社は、AIの活用を加点で評価しています(第7章)。使わない理由が、使い道の見えなさや聞く相手の不在にあることも多いため、まず発表会のような場で同僚の使い方を見てもらうのが先だと考えています。
Q4: 兼務の時間は、どのくらい空ければよいですか? 本記事では数字を示せません。会社の人数、AIを使う部署の数、担当の本来の業務量で変わります。決め方は第4章に書きました。時間を先に空けること、使い道を決めること、見直す日を決めること、の3点です(第4章)。
Q5: 研修をもう一度やるべきですか? 研修は、使い方の底上げに向いています。ただ、旗を振る人、時間、評価の方針が決まっていない状態で重ねても、受けて終わりになりやすいと見ています。研修の前後で3つも確認し、研修の中身はAI内製化の4か月を参考にしてください。
Q6: 効果は、いつ語ればよいですか? 着手時は、削減額を試算として示し、前提を明記します。実績として伝えるのは、導入前後を比較できる記録がそろってからです。何を測るかは、着手前に決めておきます。語る時期の考え方はAI導入の着手順に書きました。
10. 当社の運用から
当社の実例として紹介したのは、取締役による推進、社内の発表会、加点評価の3つです。
- 取締役が旗を振りました:月3回の研修の中身はAI内製化の4か月に書いています
- 研修のほかに、発表会を開いています:月曜の朝礼のあとに30分、学んだことを社員に発表してもらう場を、定期的に開いています
- 2026年下期から、賞与の評価に加点を入れています:AIの活用による生産性の向上や時間の短縮を、本人が論理的に書く形です
兼務の時間の決め方は、第4章で当社からの提案として示しました。当社の実績の数字は示していません。
個人の名前、件数、削減できた時間は載せていません。当社の運用は一例で、会社の規模や業種によって、合う形は変わります。
11. まとめ:次の一歩
研修を重ねる前に、次の3つを決めてください。
- 旗を振る人を決める。詳しさより、業務のやり方を変える判断ができる立場か、その人にすぐ届くかを見る
- その人の時間を、本来の仕事の中から先に空け、使い道を決める
- AIの活用を評価に載せるかを決める。載せるなら、使った量より、業務がどう変わったかを見る形を検討する
そのうえで、社内の発表会のような、同僚の使い方が見える場を、小さく始めてみてください。
AIの導入の進め方、推進担当の置き方、運用の設計は、AI活用顧問からご相談ください。
参考文献
- 自社の運用:当社のAI運用の実例(2026年11月時点)
- 当社の関連記事:地方企業と自治体のAI活用/AI内製化の4か月/生成AIの社内ルール/AI導入の着手順/AI顧問・AIコンサル・受託開発の違い/AI導入の内製・外注費用
※本記事は当社の運用の一例です。人事評価の変更は、就業規則や評価規程との関係があるため、社労士にご確認ください。
最終更新日:2026-11-01/初回公開予定 2026-11-06 著者:後藤晃(デジタルプロモーション株式会社 代表取締役社長)。著書『マーケティングで挑む地域創生』(2025年)、シェア出版『「ゼロイチ」の挑戦 Vol.2』第10章寄稿。駅前・街頭のデジタルサイネージ網「タウンビジョン」を全国展開し、サイネージ・SNS・地域メディアを組み合わせた運用代行を専門に手がける。