自治体の広報でAIを使う話は、事例と国の資料が出そろって、だいぶ具体的になりました。動画が作れる、バナーが量産できる、原稿の下書きが出る。実際そのとおりです。
ただ、現場の担当者から出てくる質問は、たいていその先です。
「で、それを誰の名前で出すんですか」
民間企業の発信であれば、最後は社内の判断で済みます。自治体の発信は公金で出すものなので、同じようにはいきません。誰がどの基準で通すのか。委託先が納品してきた素材にAIが混ざっていたとき、何を確認するのか。ここが決まらないと、どれだけ便利でも現場では使えません。
この記事では、シティプロモーションの3工程(企画・素材づくり・効果測定)でAIが効くところを整理したうえで、出す前の関門をどう設計するかを扱います。シティプロモーションそのものの定義や体制設計はシティプロモーションとはで書いているので、この記事では触れません。
結論:AIが効くのは「量が要る工程」だけ。関門を先に作る
先に結論です。
シティプロモーションでAIがいちばん効くのは、量が要る工程です。切り口を1つ考えるところではなく、考えた切り口を10通りの見せ方に展開するところ。企画の初期に、手元の資料を整理して論点を洗い出す使い方も有効ですが、そこで出た案からどれを選ぶかは人の仕事として残ります。
そのうえで、順番が1つあります。
関門(出す前に誰が何を確認するか)を決めてから、量産を始めてください。
逆にすると、素材だけが増えて、通す工程が詰まります。作れる量と通せる量が釣り合わない状態は、現場では「AIを入れたのに前より遅くなった」として体感されます。
これはAI活用全般に共通する構図で、当社は地方企業と自治体のAI活用で、外に出る発信については公開前に人が必ず一度入る工程から着手するという順番を書いています。シティプロモーションはその典型です。
なお、総務省が公表している調査によると、令和7年(2025年)10月31日現在で生成AIを導入済みの自治体は、都道府県と指定都市が100%、その他の市区町村が45.6%です。実証中・導入予定・検討中まで含めると約88%なので、庁内利用はもう例外ではありません。外向きの発信に広げるかどうかが、いまの分かれ目です。
使いどころを、工程で分ける
シティプロモーションの仕事を4つの工程に割ると、AIの効き方がはっきり分かれます。
この表で見ていただきたいのは、右2列です。AIが効かない列に並んでいるのは、どれも「説明責任が発生する判断」です。 説明責任が発生する判断は、人の側に残ると考えて工程を割ってください。
ただし、説明責任だけで可否が決まるわけではありません。個人情報、まだ公表していない政策情報、契約に関わる情報を扱う作業は、説明責任が薄くても入力してよいかを別に確認する必要があります。ここは庁内のガイドラインが先です。
工程をこの粒度で割る作業は、AI導入の前段にあたります。割り方そのものはAI導入の着手順で扱いました。
企画:住民の声を整理するのには使えます。選ぶのは人です
企画工程でAIがいちばん効くのは、すでに手元にある文章の山を整理するときです。
市民アンケートの自由記述、移住相談の記録、総合計画の策定過程で出た意見、SNSに寄せられたコメント。これらは量が多く、担当者が全部読み切れないまま「代表的な意見」だけが拾われがちです。分類と要約はAIが得意な作業で、しかも見落としが減ります。
ただし、ここには落とし穴が2つあります。
ひとつは、要約は多数派に寄ります。 少数だが重要な指摘が、要約の過程で落ちます。数を減らす目的で使うのは構いませんが、「AIがまとめた3点」をそのまま企画の根拠にしないでください。元の記述に戻って読む工程を残す必要があります。
もうひとつは、AIは地域の実感を持っていません。 出てくる切り口は、どこの自治体でも通用する一般解に寄ります。「豊かな自然と温かい人」のような文言が出てきたら、それはAIの限界ではなく、入力した材料に地域固有の情報が足りていないサインです。
企画の出口をどう設計するかは、観光の文脈だと主語がずれやすい論点があります。観光協会・DMO・自治体で誰の企画なのかが曖昧なまま進むと二重発注になる話は、地域DMOとマーケティングで整理しました。
素材づくり:量産の線引きを、先に引いておく
ここがいちばん期待され、いちばん事故が起きやすい工程です。
実際に動いている例はあります。和歌山市のシティプロモーション課は画像生成AI(Adobe Firefly)で作ったキャラクターをPR広告に使い、相生市はAI技術で生成したモデルを起用したPR動画を「#相生ランウェイ」として公開しました。技術的にはもう十分に実用段階です。
問題は、どこまでをAIに任せてよいかの線が、庁内に引かれていないことです。実務上は、次の3つに分けると整理できます。
- 任せてよい:案出し、言い換え、尺違い・比率違いへの展開、下書き
- 人が確認する:事実(日時・場所・料金・制度名)、固有名詞、地域の景観や風習の描写
- AIを使わない:実在の人物・施設を写真として見せる部分、災害・防災など誤りが直接被害になる情報
3つ目が抜けやすいところです。存在しない風景を、その市の風景として出すと、後から必ず問題になります。 「イメージです」の一文で済む場面と、済まない場面があります。観光の誘客で使う画像は、来た人が「違う」と感じた時点で逆効果になります。
もう1点、権利の確認があります。観光庁が令和7年2月に公表した「観光地・観光産業の生成AIの適切な活用に向けて」には、生成物についてこう書かれています。
生成物については、既存の著作物と類似していないかを確認し、類似していることが判明した生成物については、既存の著作物とは全く異なる著作物となるよう大幅に手を加える等、そのまま利用することを避ける必要があります
この記述は観光案内所や観光施設の担当者を想定したものですが、確認する人がいなければ成立しないという構図は自治体の広報でも同じです。ツールが自動で保証してくれるものではありません。委託して作らせる場合は、受託者にどこまで確認・保証させ、発注者側がどこを検査するのかを分けて決める必要があります。次章で扱います。
効果測定:測れるようになったことと、設計が要ること
効果測定でAIが効くのは、これまで人手で数えていたものを自動で数えるところです。
サイネージや屋外の掲出であれば、カメラで通行者数と滞在時間を取ることができます。SNSであれば、コメントの分類(好意的・否定的・質問)を自動で振り分けられます。どちらも、これまでは「やったほうがいいが人手が足りない」で見送られてきた作業です。
ただしカメラ計測は、入れる前に決めることがあります。撮影していることをどう告知するか、映像を保存するのかしないのか(人数だけ数えて画像を残さない設計にできます)、保存するなら期間と管理者は誰か、運用を委託する場合の委託先管理をどうするか。自治体が住民を対象に行う以上、この4点は先に整理してください。
ただし、指標そのものの設計はAIではできません。 シティプロモーションの効果は、来訪者数や移住者数のような最終指標まで距離があり、途中の指標を計画や議会にどう位置づけるかは先に合意が要ります。「測りにくいが意味のある指標」を制度に通す手順は地域マーケのKPI設計詳解で書きました。
掲出面の条件差をどう揃えて比べるかは、自治体・公共施設のデジタルサイネージ運用の調達設計とあわせて読んでいただくと、実装まで一本につながります。
国はすでに「委託契約書に定めよ」と言っています。訳されていないだけです
ここからが、この記事で最も伝えたい部分です。
シティプロモーション×AIの記事を一通り読むと、ほぼすべてが「何ができるか」で終わっています。当社が読んだ範囲では、委託・仕様書・検収に踏み込んだものはありませんでした。
ところが、国の文書のほうは、すでに踏み込んでいます。
総務省が2025年12月に公表した「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドラインひな形」には、次の一文があります。
(自治体名)が業務を委託する外部事業者に対しては、当該委託業務の成果物に生成AIシステムによる生成物が含まれる場合の取扱い等について、委託契約書等に必要な規定を定めることなどにより、受託業務の遂行に当たって本ガイドラインに沿った対応を求めること。
「委託契約書等に必要な規定を定めること」と、はっきり書かれています。
つまり、国は「決めなさい」と言っています。そこは空白ではありません。
空白なのはその先です。「必要な規定」が具体的に何を指すのかが、示されていません。 ひな形は「定めること」までで止まっており、総務省のガイドブック本体にも、東京都の手引きにも、観光庁の手引書にも、検収という言葉は出てきません。
公的な参考資料がまったく無いわけではありません。経済産業省は2025年2月に「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」を公表しています。AIサービスを使う側・AI開発を委託する側が、提供するデータの扱いやAI生成物の利用条件を契約で確認するための資料で、法務の担当者にも、初めて検討する事業部門にも使える形で整理されています。契約の考え方を押さえるには有用なので、目を通しておく価値はあります。
ただしこれは、AIそのものを使う契約・作る契約を想定したものです。シティプロモーションの委託で実際に起きるのは、動画やパンフレットの制作を委託したら、受託者が制作過程で生成AIを使っていたという形です。この場合に仕様書と検収をどう書くかという粒度では、まだ整理されていません。
国は「定めよ」と言っている。考え方の資料もある。しかし、広報の委託仕様書にそのまま書ける言葉には、まだ訳されていない。これが実際の状態です。
広報の現場語に訳すと、決めることは4つです
当社は、シティプロモーションの業務委託で4市の仕様書を読み比べて、後で困らない条項を整理しました。そこにAIの論点を足すと、決めることは4つに絞れます。
④について、ひとつ補足します。公開後に起きることは、契約不適合責任だけでは処理しきれません。第三者から権利を主張された場合は表明保証と補償の話になりますし、事実誤認が見つかった場合は差し替えの期限と費用の話になります。まとめて1つの条項にせず、分けて書いておくほうが揉めません。
そのうえで、現場でいちばん効くのは①です。 使ったかどうかが分からないまま検収に回ると、②以降が全部機能しません。逆に、申告さえ仕組みになっていれば、残りは既存の検査工程に乗せられます。
注意点を1つ。デジタル庁が定めているAI関連の技術要件(DS-920など)は、府省庁の情報システムを対象としたもので、自治体に直接の遵守義務があるわけではありません。仕様を考えるときの参考にはなりますが、「国が決めているから」という説明の根拠には使えません。
また、自治体の起点になるのは総務省の資料と自庁のガイドラインですが、それだけでは足りません。著作権は文化庁、契約の考え方は経済産業省、個人情報は個人情報保護委員会と、論点ごとに所管が分かれています。仕様書を書くときは、論点ごとに当たる資料を変えてください。
「生成AIで作りました」と書くべきか
書くかどうかを迷う論点です。
東京都デジタルサービス局が令和8年3月に公表した「東京都 AI導入・活用ガイドラインに基づく 生成AI利用の手引き Version 1.0」は、都の職員に向けたものですが、チェックポイントとして次のように書かれています。
生成AIの生成物を対外的に使用する場合は、その旨、明記
そのうえで、「生成AIにより作成」等と記載する、という具体例が示されています。
ただし、これは東京都が都の職員に示しているチェックポイントであって、法令上の義務ではありません。 他の自治体に適用されるものでもなければ、全国一律のルールがあるわけでもありません。自庁でどうするかは、自分たちで決める必要があります。
ここから先は当社の見方です。表示するほうが、運用は楽になると考えています。 理由は3つあります。
- 後から「AIを使ったのか」と問われたときに、既に書いてあれば説明が済みます
- 書く前提にすると、庁内で「どこまで使ったか」を把握する習慣がつきます
- 表示を嫌がる委託先は、①の申告も嫌がります。選定の材料になります
もちろん、表示したことで受け止め方が変わる可能性はあります。媒体と用途、そして生成AIがどこまで関与したかによって、書くべきかどうかの判断は変わります。一律に決めるより、基準を作るほうが現実的です。
逆に、表示しないと決めるのであれば、問われたときに誰が答えるかを先に決めておいてください。 表示しない判断自体は成立しますが、答えられない状態は成立しません。
やってはいけない使い方
現場を見ていて、避けたほうがよいと考えているものを挙げます。
1. 存在しない風景を、その地域の風景として出す
観光の誘客では特に避けてください。来訪者との期待値のずれは、来た後に評価として返ってきます。
2. 「市民の声」に見える文脈で、生成した人物を使う
利用者の実例や住民インタビューに見える形で生成人物を使うと、実在の住民の声を扱う他の発信まで疑われます。イメージ素材として使うなら、その旨を明示してください。
3. 制度・料金・災害情報の原稿を、確認なしで出す
生成AIは、もっともらしい制度名と金額を作ります。ここは下書きに使うとしても、必ず原典と突き合わせてください。
4. 通す人を決めないまま、量産を始める
冒頭に書いたとおりです。作れる量と通せる量が釣り合わないと、現場の負荷はむしろ増えます。
5. 委託先に任せきりで、使ったかどうかを聞かない
聞いていないだけで、使われている前提で設計してください。聞く仕組みが①の申告です。
まとめ
- AIが効くのは量が要る工程。切り口を選ぶ判断は人に残ります
- 説明責任が発生する判断は、すべて人の側に残ると考えて工程を割ってください
- 素材づくりは「任せてよい/人が確認する/AIを使わない」の3つに線を引く
- 効果測定は集計が自動化できます。ただし指標の設計は先に合意が要ります
- 国は「委託契約書等に必要な規定を定めること」と既に書いています。足りないのはその中身が、広報の委託仕様書に書ける言葉に訳されていないことです
- 決めることは4つ。①申告 ②確認の分担 ③素材の出どころ ④直しの扱い。いちばん効くのは①
- 生成AIの表示は法令上の義務ではありません。ただし東京都の手引きは明記を求めています。表示するほうが運用は楽になります
- 関門を決めてから、量産を始めてください
当社は自治体のシティプロモーションと、自社のAI活用の両方を実際にやっています。仕様書の条項づくりから、庁内で通る運用の形まで、現場の言葉でご相談に乗れます。AI開発・AI活用顧問からお問い合わせください。
よくある質問(FAQ)
Q1. 庁内にまだ生成AIを入れていません。広報から始めてよいですか。
順番としては、庁内利用で慣れてから外向きに広げるほうが安全です。外向きは失敗が住民の目に直接届くためです。ただし「知られていない」ことが政策課題になっている場合は、外向きも同時に設計に入れてください。その場合も、関門を先に決めるのは変わりません。
Q2. 委託先がAIを使ったかどうか、どうやって確認するのですか。
技術的に見分けることは前提にしないでください。仕様書に申告義務を書いて、報告させるのが基本です。 これに、使ってよいツールの範囲を仕様で示す、素材の一覧を納品物に含める、納品時のチェックリストを付ける、といった手当てを足していきます。見分けようとすると検収が止まります。
Q3. 「生成AIにより作成」と入れると、信頼されなくなりませんか。
現時点では判断が分かれるところです。当社は、表示しない場合に問われたときの説明コストのほうが大きいと考えています。ただしこれは自庁で決めるべき論点で、全国一律のルールはありません。
Q4. 国のガイドラインには、検収の基準が書いてありますか。
書かれていません。総務省のガイドブックにも、ひな形にも、東京都・観光庁の手引きにも、検収の具体的な基準は示されていません。ひな形は「委託契約書等に必要な規定を定めること」までです。契約の考え方であれば経済産業省の「AIの利用・開発に関する契約チェックリスト」が参考になりますが、これはAIサービスの利用契約・AI開発の委託契約を想定したもので、広報制作物の検収を扱うものではありません。中身は各自治体が決めることになっています。
Q5. デジタル庁の技術要件に従えばよいのではないですか。
デジタル庁が定めている要件は府省庁を対象としたもので、自治体に直接適用されるものではありません。参考にするのは構いませんが、根拠としては使えません。自治体が拠るのは総務省のガイドブックとひな形、そして自庁のガイドラインです。
Q6. 小規模な町村でも、ここまで決める必要がありますか。
規模に関係なく、①の申告だけは決めてください。残りの3つは既存の検査工程に乗せられます。逆に、職員数が少ない自治体ほど確認工程が1人に集中するので、委託先に申告させる仕組みの効きは大きくなります。
Q7. AIで作った動画を公開したあとに問題が見つかったら、どうなりますか。
修正・差し替えの手順と費用負担を契約書に書いていなければ、その場で交渉になります。④を先に決めておいてください。公開してから直すことは起こりうるものとして、差し替えの期限、無償で直す範囲、原因の報告までを先に書いておくのが実務的です。
Q8. 効果測定にAIカメラを入れれば、シティプロモーションの効果は測れますか。
測れるのは接触の量です。それが移住や来訪にどうつながったかは、別の設計が要ります。接触データは「掲出面の条件差を揃えて比べる」ためには非常に有効なので、面ごとの比較には使ってください。
参考文献
- 総務省「(自治体名)生成AIシステム利用ガイドラインひな形」(令和7年12月16日) https://www.soumu.go.jp/main_content/001045549.docx
- 総務省「地方自治体における生成AIの実証実験・導入状況等調査」(令和7年10月31日現在) https://www.soumu.go.jp/main_content/001070295.pdf
- 総務省「自治体におけるAI活用・導入ガイドブック<導入手順編>(第4版)」の公表(令和7年12月16日) https://www.soumu.go.jp/menu_news/s-news/01gyosei04_02000155.html
- 東京都デジタルサービス局「東京都 AI導入・活用ガイドラインに基づく 生成AI利用の手引き Version 1.0」(令和8年〈2026年〉3月) https://www.digitalservice.metro.tokyo.lg.jp/documents/d/digitalservice/ai_guideline_03
- 東京都「『東京都 AI導入・活用ガイドライン』を策定」(2026年3月30日) https://www.metro.tokyo.lg.jp/information/press/2026/03/2026033059
- 観光庁「観光地・観光産業の生成AIの適切な活用に向けて」(令和7年2月・国土交通省観光庁 参事官〈産業競争力強化〉) https://www.mlit.go.jp/kankocho/content/001888805.pdf
- 経済産業省「『AIの利用・開発に関する契約チェックリスト』を取りまとめました」(2025年2月18日) https://www.meti.go.jp/press/2024/02/20250218003/20250218003.html